忍者ブログ

  源氏物語「葉」
++葉巻++シガー++レビュー++個人輸入++ブログ

|cigarOne|¥24190/24|2018/11/11・arr 11/20|
|RAG ABR 18|5 1/4 x 44|重量:9.24g|香:3.9~4.0 ave4.0|残8|

 重量軽め。
 まろやかな麝香めいた官能の煙が迷路状に細々として只管漂い続けるという……分解すれば杉やカスタードやハバナ葉らしい豆風味だったりするのだが、完全にとろけ、一体化し、変化もなく根本までそれで一貫してしまうという……一種の美味しい理想なのだった。この味が欲しい時にこの味が続くというのはなんとも信頼できる棒である。
 着火するまでは不信だが、着火後一口で信頼し始めて、そのまま。
 杉とカスタードと葉云々からこの香りが生まれるとは信じ難く、葉のみからとなれば尚更信じ難い。「云々」からは色気のある要素やそうでない要素などがどんどん析出されてくるだろう。香味は異なるものの、物珍しさはオーパスXに似る。トリニダッドとして過去最高の香りだったかもしれないが、やや線が細いのと(細い割にかなり濃密だが)、酸味っぽさで最高点が伸び悩む。
 熟成2年弱というのがポイントなのかもしれない。

 奮わないD6に比べると遥かに価格帯満足度も高いのだが、ガツンとしたハバナではないので常喫候補になりにくい。とはいえ巨大な祝祭感あらず、ささやかな珍奇な喜びを祝うのに最適なような。
PR
|cigarOne|$202/12|arr 2011/1/24|
|PUB OCT 07|6.4 x 42|13.03g|香:3.7~4.2 ave4.0|残1|

 前回()から四年以上経っている。
 トリニダッド全体を白米に見立てると、インへニオスはお焦げの部分に相当する。香ばしさの中に焦げきらない瑞々しさを蓄えている。おしなべてEL物は「水っぽい」と思っている(何度もそう書き続けている)のだが、此処では今やそれが熟成の円やかさと妙に調和して、「単なる優しさ」として現れるようである。透明だった水が柔和な薄茶色を帯びたような。味わいはまさに米粒の旨味を覘くようで薄いながら逞しく、吟醸酒となる芯の部分に木犀などの花が咲いている。
 優しさに荏苒と弛まず、剥いだ籾殻がお焦げに混じってコイーバのエスキシトス並に香るのが面白い。コイーバに居る栗が居ないから、白米との対比で面白い。
 十二年というのは枯れ感を出す年月ではないらしい。至って溌剌として、人間で言えば24歳ぐらい、壮年期、ようやく吸い頃を迎えたという感じがする。
 籾殻やナッツ殻の荒々しさ、無味(かつての無味)を思わせる独特の滑らかさ、かつて同様にこの二つが同時に来るが、荒さはより猛り、滑らかさは水ならず優しい旨味を乗せている。猛るにも、美味しげな香ばしさが猛るのが良い。

 特別おすすめできる物ではなくて(どんどん消費したくなるような美味しい物ではなくて)、ベテランが気長に放っておいて、存在をすっかり忘れた頃に見つけて変化を楽しむ類の、そういう面では極めて面白い逸品であるかもしれない。と、今日気付く。購入当初は損をした気分だったが。こいつのお陰で、今日をもってベテランの仲間入りを果たした、といえなくなくなくなくない。
 あるいは今こそ初心者も皆でシングル買いすべき葉巻である。

 中盤からとても美味しいココナッツミルクが芯の金木犀の養分となる。このミルクめいた芳醇の極みは長くはつづかず、またともすると静かに揺れる水面を思わせる滑らかさを得る。なんかやっぱり奥義を極めた老人みたいだな。時には若者より華やかに装い、乳房すら湛え、顔面、皺の刻が深い。その心知られずとも、いずれにしても変人である。

 終盤、水が騒ぎ、焦げを突く。そのような音の味わいになる。

 ELの向かう先はERの明後日を向いている。元々の香味の特質もメジャーブランドとマイナーブランドで違いがあるので、推し進める方位も元々の香味に左右されてしまうのか。ELはラッパーをダーク化する傾きで、水を得た荒さがときに美しく際立つ、谷底には水。濃いのか薄いのかよくわからない感覚。旨味の欠如とも言えるかもしれない。濃くとも白米程度の旨みになる。ERは逆に明るくぼやけて元々のごつごつした荒野感を細やかに均した平面に多様な水彩画が描かれる、たぶん。
|cigarOne|€378.85/12|arr 2018/9/20|
|RAG JUN 18|166mm x 52|18.54g|香:3.6~3.8 ave3.7|残8|

 スギスギせずに杉がかなり収まっている。非常におおらかで優しいところから、しばらくすると甘い花の蜜が垂れ、重厚なコクを思わせる炒ったナッツが煮えてくる。そこをさーっと杉の風が過ぎ、あっという間に爽やかになったり、風に潜まった景色が再び華やぐと蝶まで喜んで舞うようである。その杉風もシンプルで芳しい。
 それから杉風吹きつのり、おかしな話だが、風がクリームパン専門店を一周めぐってきたらしく、美味しい風に変る。パン屋は遠く離れているものの、風の知らせで何を焼いているのかがわかり、今度はナッツパンも焼き始めたらしい。
 パン屋と杉風の絵は、なんとも朗らかで丸っこい絵である。どうも絵具を蜂蜜水で薄めて塗っている。芋焼酎における芋の甘さの出方に似ているような、似ていないような。全体は概ねセピア的に黄色い。ただ、蜂蜜には必ず草の風味がかすかにせよ付き物である。花も草の一部ということかもしれない。
 ドローは悪くないがややむっしりしすぎ。こんなところにも杉が現れる。結局至る所でスギスギしている。ひねもす擬態で、一旦見破ればもはや杉にしか見えなくなるというもの。(重量を調べると前回よりも3g近く重い)
 終盤はパン・オ・金木犀・オ・スギで、穏やかに金色に高ぶる。森のクマさんの如く蜂蜜をより厚く塗りたくり、パンの表面にあったナッツを剥がしてパンの奥に仕込むなどして夢中になっていると一瞬塩素騒ぎが起る。途端にバターの代りにハッカ油が空から降ってきて、傘をさすも森は焼け野原の美味しい焦げ臭で、一体今度はどんなパンを風が運んでくるのか、それが運ばれることはないだろうなとクマさんは諦念で悦に浸る。
|cigarOne|¥24190/24|2018/11/11・arr 11/20|
|RAG ABR 18|5 1/4 x 44|重量:10.54g|香:3.8~4.1 ave4.0|残11|

 箱から取り出すと杉の香が密室にむんと籠っていたかのようで、これはもうこの葉巻の確定要素と言って良い。(他、アップマンに近い傾向あり。)箱の中は六本掛け四段で、杉板三枚で杉の香を染ませるように葉巻を挟んでいる。
 空吸いすると年季の入った醸造モノを思わせる熟成の、茶色い奥深い旨みが感じられる。
 着火すると煙柔らかく、柔らかさも確定要素のようなものだが、トリニダッドは侮れず強さを出すこともよくある、とりわけレイジェスやコロニアレスのような小型の場合は強い傾向が強い。
 この頃の季節、鬱蒼と茂りつつも間も無く秋めく森の中、総杉板張の旅館で憩い、中庭で薫らせればさぞ美味しかろうという感じがする。杉の爽やかな薫香のみならず熟成の旨味ある香ばしさがそこに美味しさを添えている。日本化した雰囲気に幽かなハバナ豆の懐かしさが絡む。やや寒く森林に浴する心地がし、秋の花も咲いている。
 森林と醸造と秋の花が見事に融合して、また見事にハバナが日本化して感じられた。爽やかにしてしんみりとする。
 旅館というのはおそらく一人旅であった。森の中に佇む旅館で、そぞろで、幽霊が夕食を運んできたかのような、まだ明るい午後四時ぐらいの夕食で、曇り空であった。葉巻が夕食だったのかもしれない。

 自宅での熟成等に成功したとしか思えない。特別なことはしていず、たまたま今日、ヒュミドールと部屋と曇った秋空が邂逅しただけかもしれない。
|cigarOne|€378.85/12|arr 2018/9/20|
|RAG JUN 18|166mm x 52|15.88g|香:3.6~3.8 ave3.7|残9|

 ラッパーは緑色の小さな斑点を残して、それが若布なのか磯の生臭さを漂わせている。匂いに太陽の感覚が有るため屋根の下の魚屋よりも空の下の磯に寄り、思うと塩気まで感じられるようだがたぶん思い込みにすぎない。同日昼に燻らせたフォンドボーに比べて不味そうな匂いであるのに着火すれば魚は天使の羽を生やして完全消失する。やや羽のように軽くて乾いたキューバシガーの香りが始まる。
 かすかな酸味を伴う杉あり、ありありした杉の下を舌で過ぎると、杉並木はゆめ長くも雲のように割れるのか杉の間からパウンドケーキが香るか香らないか迷ううちに麦に出くわす。パウンドケーキで挟むはずのカスタードを杉の下駄でサンドすると砂混じりの酸素が酸っぱいカスタードになる。
 煙はあまり多くないのにどうしてか火種から立ち昇る細い煙が濃く見える。白く凝縮した煤のようで、浮いているがいまにも垂れ下ってきそう。同日昼は実際に黒い煤が垂れ下がってきた、初めて。
 酸味はノイズのように映るのだけれど、全体は最近の葉巻たちと違って安心させる効能ある香りがする。柔らかいハバナと杉、そのほかでない、地元に帰ってきたような。よくよく感じようとしてみると、地元がいつもよりも酸っぱい。誰か死んだか、と気軽に考える。
 赤ワインやラムに替えて日本酒を取り出すと酒が似合う。トリニダッドと日本酒の組合せについては従来まじまじと重ね書きしている。杉の香りが紐帯となるのかもしれない。
 一度灰が落ちたところから煙がバーストしはじめおかしなお菓子化をしはじめてこれはお菓子かと疑うもがな檸檬入りとも知られずも胚芽が落ちれば花も咲く毬栗落ちずチーズ落ちず地図不明にして日本酒を含むと菊と菜の花が聴こえるようで金木犀らしき芳香には方向足らずタラの臭みなし。
 ふつうに美味しいハバナであるのにふつうのハバナより美味しい。凄みもなし、トリニダッドらしくトリニダッド自身への寛容さありか、トリニダッドとしてもいつもより淡々として太い。最後にスパイス出るものの清酒と杉の睦まじさの域を出でず。
 根元まで生きていたのが久しぶりの上出来この頃には赤ワインもラムも睦まじい。
 日本酒をキューバで売る日は遠いこれは久保田千寿頂き物の夏の常温で、普段自分ではまず買わないものを頂くだにいつも案外具合よく大活躍する銘柄である。煙が消えてもなかなか美味しい。
|cigarOne|¥24190/24|2018/11/11・arr 11/20|
|RAG ABR 18|5 1/4 x 44|重量:9.47g|香:3.3~3.6 ave3.5|残13|

 もう売り払ってしまったが、夏夜の闇の中、祖父の家の茂った庭に出た時の、やや小便臭いような湿った雨と草の匂いがする、中に立つ小屋の木の匂いだったかもしれない。小屋の中の鉄の油の匂いも混じっていたのかもしれない。まさかこの葉からこの匂いがするとは思わなかった。今現在の気候や時間も作用しているのかもしれない。海が近くて、日の出前に起床して寝惚けつつ釣りに行ったことなどを思い出す。
 今日は昼からラトローバを燃したい気がしていたのだが、もう夜明け近い時間で、同じトリニダッドで小さいものを選んだ。
 立て続けに新世界葉巻を燻らせた後、どう感じるかの興味で、小型の物よりも、いっそ新世界に負けない物をと思ってトローバがその強大な浮力で浮かんでいたのである。今日の飲物予定が清酒だったということもある。しつこく書いているが、清酒とトリニダッドの取りに合わせは頗る良い。

 安定のまめまめしさでピーナッツの殻などのように香ばしい。トリニダッドの場合、より煎る様な深みや旨みは増しても甘味はほとんど乗らない。ほとんど同時に花がまっすぐ風に乗って辷るようにトンネルを筒抜けてくる。トンネルの奥には明らかに満開の花畑が広がっている。その方向に進もうとしているのか、その方向に進まない奴があるだろうか。仮にその方向をbとしよう。逆方向は無論aではなくdである。煙が逆立ちすればそれはpやqの方向である。
 酸っぱい。なんでここで酸っぱい? こんな話初めて聞いたぞ。ばかやろう、早くb方向のトンネルを掘らんか。夢にも現実にも見た道だぞ。
 おい、dに戻ったか、まだ昼飯には早いぞ。落石でdが塞がっちまった、bだ、bだ、抜いたぞ、あとは穴を広げるだけや。おい、そん洞窟ん中で小便するなやぁ。ええ香りやろ? ま意外と悪いことないね。ほな! あかん、その辺で止めとき、切るで。おい、誰や、ブレーカー落としたの。はよ火ィ点け直せえや。
 おい、なんか焦げとるでぇ。杉チップの燻製かいな、早よ穴広げえや。そやさかいもう穴広がっとるでぇ。なんや明るい思うたわ。なんやこれ、bdpqやのうてcやないか。目明きやのに、どこ穴ほっとんの。uかいな、方向分からんくなったわ。宇宙遊泳みたいやらほいな気分やないけどぉ。cはいけんて。右左まちごうとるて。やなんか出てきたで。え、全部やないん? 穴の向こうで金木犀火事燃えとる! 吸え、吸え。この穴めっちゃいい匂いするやん。早よ穴広げえや、めっちゃいい匂いするやん。広げとうたら死ぬちゃうか、広げんでも死ぬんちゃうかあなぁ、同じことや。煙やばいで。焦げた感じが美味いから。お米んおこげみたいな旨いやつや。ほんま美味いなぁ、このまま死ぬんかなぁ。金木犀とお米とお焦げとピーナッツの殻かえなぁ、ミルク垂らしたらあかんわ、レモン垂らしたら。合うねんで? 煙やもん。
 安定で死者が生きとるんや。死者が美味しぃいつまでも息づいとるんやで。こんないいことないねんな。cやで。cのほかいらんねん。ヒーコ(コーヒー)くんなはれ。ばかいえ、清酒とけたらなんやかやや。いつまでも滞留しとんねな。そや。せやな。そやせやな。
 死に際めっちゃ美味いやん。
 bやな。
 いい仕事しとったな。穴開いたんや。
 開通ぅ〜開通ぅ〜。
 イカ痛はいいけどぉ、このイカ結構辛くていいな。
 イカすわぁ、ほっこりするわ。
 背筋伸びるんとちゃいまっか?
 トンネル狭いからなぁ、こんでも伸びた状態でっせ。
 まいっか。まいっかまいっかまいっか。大団円

 忘れていたが、前回のコロニアレスの記事を読み返すと内容は酷似している。おじいちゃんが登場するあたり。ハバナらしい美味しさをも実感した次第。ニコチン酔いというより、今や清酒が進みすぎてやや気持ち悪くなる。
|cigarOne|¥24190/24|2018/11/11・arr 11/20|
|RAG ABR 18|5 1/4 x 44|重量:??g|香:2.7~3.8 ave3.5(飲物補正あり)|残14|

 鶏舎・牛舎・豚小屋・藁置場というより、おしっこ臭い美味しそうな匂いがかぐわしく、半年余りで変貌を遂げている。用に切り出した杉のおしっこ臭さとほぼ似ていて、トリニダッドらしい杉を着火前にも隠しきれないで、滲み出てしまったものらしい。杉を絞ったような。
 購入し到着後すぐ着火した一本は美味しくて、ついでもう8本燃やしてしまった物はあまり美味しくなかったが、この10本目は何かを期待させる。

 空吸いすると杉のほかにシェリー化した葉のような濃密な酸化のコクが感じられる。

 着火すると、以上から導く予期を裏切らずに、それでも何か名状し難い煙らしい複雑さが加味される。名状し難いというだけでは全く書く意味がないので、何とか書きたいとは思う、というよりそもそも、たとえ書かずとも、物は分析心に訴求してのみ美味しさを高めるのかもしれない。換言すれば、「これは何だ?」という疑問を引き出すことが美味しさの秘訣なのではないかと。
 一口目で、予期していない花も既に少し香った気がした。そういう多様さはさておき、予期通りの味が出るというのがまず珍しい。

 時間を経ても、蔵する香味はあまり変わらず、バランスの動きとして花が出しゃばってくる、と同時に滑らかでないえぐみが口に残るようになる。花は金木犀ではないようで、やや白いような。
 しかし花が黄みを帯び、おしっこが急速に煮詰まってくる。煮詰めているのに、鮮やかな黄の色が失われないことに不思議さを、感じようと思えば感じる。この程度の言語遊戯でさえ、美味しさを高める可能性がある。味が濃くなったのだから煮詰まったのだろう、煮詰まったのだから黄は茶になるだろう、でも見える花は黄のままである、感じる味わいも黄のままである、茶色いといえば葉巻の葉っぱがもともと茶色くて、茶色い味わいも発しているのだから、花の茶色は葉の茶色に吸引されてしまったのかもしれない。
 そうこう考えているうちに黄のカスタード、卵の黄身にバニラに、花の汁を混ぜた強粘性のミルクがトロリと出てくるのである。黄と茶の色相関と似たり寄ったりな勾玉巴だが、トロリとして、極めてドライであるから、トダリとしている。トドはト、ロラはダ、リイはリ、音声学的に言っても、まさに「トダリ」としか言い得ないトリニダッドくさい味わいがする。
 さて、えぐみを消去するに、飲み物を変えるほかない。
 極めてドライな「ジン・生ライム・純ソーダ」から「白シメイ」に変更。白シメイは昔から葉巻に合うビールとして記憶していて、ベルギービールとしては割と気軽に購入できる。
 案の定、煙がソフトな膨らみを増す不思議、この不思議はとくに不思議でない。白シメイは白なのに小麦ビールではない(と思う)のだが、小麦感に優しく包まれる。そうして花の黄色がいっそう鮮明さを増して、不思議と白濁せずに鮮明さを増して、なおココナッツ化もするのである。小麦のうまみのおかげであろう、えぐみも鳴りを潜めて静か。えぐみはもう葉巻にきりりと整ったボディを与える良点にすぎない。
 白シメイに頼るところが今回のこの葉巻のダメなところなのだが、白シメイありきで計算された葉の味だと思えば最初から白シメイを指名しなかったほうがダメなのである。
 それにしても、おしっこを忘れがちにはなるが、段々と美味しさを増す葉巻というのはこれのことで、黄色いのに橙色の金木犀が満開を迎える。その橙色というのが、橙というのか、まさに日本の巷に咲く鮮やかな色で、またはマリーゴールドで、くすみが一切ない。えぐみが虫食うこともない。虫は花でなく葉を喰っている。今の主役は花なのである。かと思えばハバナ葉の風味も濃縮されて提示されてくる。なんとも豆な構成である。まめまめしい奴め、と言って親愛を込めて肩や頭を叩きたくなる。葉巻に肩や頭があればだが。
 白シメイがなかったら、どうなっていたのだろう。ここで白シメイを外す、という度胸はない。なのに白シメイは330mlという頼りない分量で、延命を図り、ちびちび含む。
 だんだん美味しくなったのに、終盤は特に変哲なく、えぐみが際立って思わしくなかったり、かと思えば全盛期を彷彿させたりと、病床のおじいちゃんをまことしやかに体現している。病床のおじいちゃんの具合が悪い時は白シメイも効かない。あとは魂がすうぅっと消えていくんだよ。
 根元に近づいて、熱くなってくると、暑い真夏に乗ったおじいちゃんの車の味がする。その車は、工業の鉄と油と畳の匂いがした。そこに若干の花を載せているのは脚色である。

 巻きは良いようでありながら、どことなく蒸し蒸しとつっかえるところもあるような、まあまあ良いものだった。
|RAG ABR 18|5 1/4 x 44|cigarOne|¥24190/24|重量:−1(9.62g)|算出:+6|香味:+4|好み:+1|計10点|

 到着日に開封し一服する。
 最初の一口で感動が来た。懐かしいような、不味いようなーー今では不味くないのだがーー初期に色々な葉巻の一口目で感じていた恐れおののかせる緊迫の味わいがある。パイナップルを食べる時にも似た緊張が漲る。パイナップルの日々から随分経って、今更それを感じるのだから、人を脅すパイナップル頭の香味成分がここに極大化しているのではないかと疑う。そのまま三口ばかり進むともう、ちょっと異常なぐらい味が濃い。パイナップル頭は味の濃さの布石として恐れられたのか、たしかにあの頃、あれは空脅しで、三口ですんなり葉巻の軽やかな風味に移行したものだ。これは脅しから空想される香味のまま移行し、現実に変じて重く垂れ下がり、しかし恐れのみを減じさせ、けっして醤油にはならないような、香ばしく煎られ醗酵させられ煮詰められた豆満帆の味わい、そこに激しい辛味を伴う。
 これまでコロニアレスはほぼ経験がなかった。二箱ほど買ったことがあるレイジェスも序盤は辛味が目立ったから、辛味についてはトリニダッドの小品の特徴なのかもしれない。コロニアレスはそこにレイジェスではあり得ない巨大な旨味を伴い、どちらかというとトリニダッドよりも一番濃い時のコイーバを思い出す、それでもそこはかとなくトリニダッドらしい杉の風も漂うという、トリニダッドがコイーバに近接するのはこれまでも時折経験したことである。
 2センチも進むと急に穏やかな春が訪れて、春の嵐の気配だになくなってしまう。辛味を置いて豆だけは間もなく戻り来る。
 軽やかに甘いカスタードが葉巻洞窟の芯を通る。全体が異様に濃いので、カスタードの軽さに物足りなさは感じず、蕾よりは開いていた花を抑えてカスタードが通ったことに再度感動を覚える。
 ここから花も負けない。はっきりほころび始めると一緒に緑の茎の匂いが刺さる。この辺りは、花、カスタード、緑、豆、四種のマーブル調で、配合の割合が不規則に変動する。乳幼児の息の匂いなども加わる。緑色の茎は蜂蜜を連想させる要素となる。
 強烈に甘い花が来る。この扱い易いような小柄な体躯から、こうも美事な満開に至るとは、壮観への夢がひょいと結実してしまい、これはなんという名の花なのだろうかと覚束ない不思議な気分になるのである。菜の花、オリーブ、アブラナ、若干油っけがあるようである。爽やかな油。それでも葉巻の煙は金木犀が一番近い。その金木犀にしても夜の感じは催さずに、昼にバニラの風が優しく吹いている。豆っぽさも失わないが、胡麻っぽさはない。植物の純粋な香味に詳しい人はなにを抽出するのだろう。ふと、エンジンオイルのような風味が感じられているのではないかと思いつく。最初の一口は、実はやや古びたエンジンオイルだったのではないか。
 豆が再度濃くなり、とともに嫌味のまるでない爽やかな揮発性を発揮する。普通、揮発性というと木のえぐみを伴うところ、ほとんどミントのような効能を示す。上等の蒸留酒や白ワインから香る青林檎のエステル香かもしれない。こってりしつつ、こってりしたものがこってりしたものを自家洗浄するような。ショートケーキに於ける苺の効能(最近ではショートケーキに於けるシャインマスカットの効能)とは少し違って、スポンジとクリームとフルーツはぐちゃぐちゃに混ぜこねられている。だいたい、ショートケーキのみには収まらず、このデザートというもの、ここでは端から砂糖を除外した、破廉恥なほど繊細微妙なデザートらしからぬミルフィーユで、菓子とも言えず、食事とも言えず、その中間を浮遊している、それらすべて花の下。明らかに吉野の桜ではないけれど、この変な花を咲かせる吉野のような山ならぬ峡が外国のどこかにはあるのではないかと見える。
 終盤は全て落ち着いて、雑味も無く、うまいうまいうまいと心で連呼する。ちょうど良い薄味に変って、うまいうまいうまいと連呼する。濃い方がうまいに違いないのに、薄味がなぜかうまいのである。うすめ液になにか妙な液を使ったに違いない。……
 ハバナ慣れし過ぎていたところ、珍しい瀟洒な豪壮味で、刻々とする変化に久しぶりに集中させられ、めくるめき、小品であることから火の進みも早く何か切実な思いを催した。
 ただ、この一本にしても、これまでの全てのトリニダッドからも、モンテクリストのような色気はあまり感じられない。と思った矢先、煙を吸うと、生気を吸われた。序盤中盤終盤をはや思い出に変えてはや懐かしませつつ懐かしみに終らない、ミントとカスタードの残香の美かと思う。
 最後の一口でサンドペーパーで傷ついた豆の素朴な風味が現れてそそり、最後の一口だったが一口が十口に膨らんで、延焼して指の火傷まで至る。金木犀の残香まで溌剌と加わり、もうそろそろ夜になり、静かにめくるめいて美味しい。いい加減もう終るはずなのだが、まだ終らない。最後の最後の最後にはなんと炊きたての米の旨味が加わる。こうなると、私は反省する者のようにもなって、過小評価を覆したくなり、モンテクリストの青みがかった色気に近しい色気が米櫃の前からあったようだった。モンテクリストではない色気にこそ、より不思議さが増す。米に青い色気が纏い付き、食品に青色は頂けないのだが、これはもう美味しい。色気とはそもそも気持ち悪いもの。
 昔から「トリニダッドは大吟醸に合う」と言っていたのはもしや米が起因だったのか、でもこのコロニアレスに限り大吟醸の味わいを殺すかもしれない。

……

 到着日開封の成功例だった。最近評価が甘く香味点+5を連発していた気がするので、+4にとどめてしまったけれど、直近で+5を与えたダビドフゴルフよりもずっと好き(ただゴルフの花のインパクトには物凄いものがある)。こういう場合のために好み点というものを設けていたらしい。
 うむ、2018年4月の製造で、製造から7ヶ月しか経っていない。「フレッシュロールまたは最低一年寝かせろ(三年?)」という葉巻神話は此処に崩れる。ラ・トローバ(同一工場製)も同様に若くて既に美味しかった。到着日の暴れん坊なので今後どこかへ落ち着いてしまうとは思う。
 この葉巻は飽きにくいものでもあるかと思う。常備品の最有力候補にして、実際に常備してしまったらどうなるかと考えてみる。他の葉巻を不味く感じてしまうということにはまづならない。この葉巻に飽きるということには多少なると思う。それは残念で、やはり常備品はパルタガス・ペテコロエスが一番安全な気がする、飽きたけれど。パルタガス・ショーツ50入がずっと気になっているけれど、小さいくせに割高だし、美味しいとしても小さ過ぎて吸うたびに物足りなさが残りそう。コロニアレスのサイズこそ万能たるべき常備品に最適という結論に至りそう。
|RAG JUN 18|166mm x 52|cigarOne|€378.85/12|重量:+1(16.38g)|算出:+4|香味:+4|計9点|

 鶏舎感というのはよく聞きますが、それはいつも鶏肉の旨味が伴うと思うです。豚肉かもしれんですが。葉巻の旨味なんですがね、ええ、良いんですよ。ここの鶏舎にはそれがない。それどころか、それそれ、よく嗅いでみるとあんたに魚臭さが直撃する。鶏肉が魚を喰ったんですかね? あんたは豚を喰った魚が鳥に成ったとでっしゃろか。
 一度目の灰が落ちる、急激に甘さがきますです。火を点ければ、魚舎なんかすっかり消えていますよ。しばらくなんの甘さがわからないが、 次第に完全体の花舎が目に入る。花に絡む、酪農臭を綺麗に削いだどこぞの北海道バターが濃密にして軽い。南海道ですかね、ええ、良いんですよ。
 灰は本当に落ちるです。はい。ええ、良いんですよ。灰の軽さがバターの軽さとちょうど合せ鏡になっているです。鏡の奥にバター・灰・バター・灰と像が永遠に続いていきそうですけれども、似て非なるいうでしょうか、燃焼リングは長く続かないです。鏡に殺られる精神と同じぐらい灰が脆いですから。鏡はどこかでぱったり。
 ミルフィーユのうわべですね、ラッパーの灰がひらひら勝手に舞う。そこら中、小さな灰だらけです。無能な灰皿には花びら吸引機能がないですからね。灰皿にそっと置いても、二度目、たった1センチの灰が落ちてしまった、こういう葉巻は美味しい事が多いです。脆さは、ドローの軽さに因るものでもなさそうでしてね。
 花の完全体の後、茎が残る。隣の花たちはまだ咲いているですよ。ずっと咲いて。
 これはトリニダッドという銘柄なんです、だからトリニダッドに香りがちな杉風が密かに舎を支配していて杉の好悪が評価を分ける思うです。思わないですかね? 思った方が良いですよ。ええ、良いですよ。完璧な葉巻です。
 それそれ、よく御覧なさい、この葉巻のラッパーは床屋の有平棒の継ぎ目がなかなか見えてこないです。リゲロ葉が分厚いとすると、薄い下部の葉なのかもしれませんね、リゲロの方を美味しがらせるような記述ばかり転がっていますがね、ええ、むしろこれもリゲロかもしれんです。バカタレ。
 五本五本。バンドを外して見たほうが良いですよ。隠れていた部分に鮮やかな緑色の斑点一つが見えるでしょうね? まあ誰だっていつか見えると思いますよ。緑色の斑点を火が経過した時の味はいかがなものか、ずっと気になるですね。でもいつか、知らぬ間に緑の斑点を通過していることになるです。ええ、緑ばかりかまっていられませんから。
 隣に並べてご覧なさい、並べれば大物だと思い込んでいたロブストエクストラが随分小物に見える。味わいの違いは大きさの違いに因るところぐらいしかもしかしたらわからんかもしれんですがね、懇ろに巨大化できたものに非の打ち所は無いはずですがね。つい一ヶ月前は不味かったんですがね。でやんすがね。
|RAG JUN 18|166mm x 52|cigarOne|€378.85/12|重量:+1(16.16g)|算出:0|香味:+2|計3点|

 届いた箱がロブストエクストラよりぐんと大きい。コイーバ 1966と同じサイズなのに、より大きく感じる。箱が到着してから加える桎梏まる三日以上真空に晒したまま、ようやく開封。
 開けてみると、おめでとう、目に艶な黄色金色の帯、匂いはそう強くなく、臭い連想系もなくて、何故か無着火状態でも甘い。

 序盤辛くない。序盤辛くないのが珍しい。トリニダッドでも珍しい。
 乾いた汗のような不味い風味があるのだが、それでもよく熟した甘みが奥ゆかしく湿ってもいる。乾いた汗のような不味い風味がある。奥ゆかしい甘みもあるが、乾いた汗のような不味い風味が続く。続いて欲しくないものが続く。
 2センチほどで、乾いた汗のような不味い風味があるのだが、薔薇が咲きそうになる。やや緑色の香。緑色が薔薇であるのは少し苦く渋い雑味に刺されるからか。薔薇が咲きそうになっているのだが、乾いた汗のような不味い風味がある。
 ややクリームが加わり、オーソドックスな赤薔薇がクリーム色の薔薇だとわかり始める。オーソドックスなる言葉の所為で、不味さから靴下を連想しないよう気をつけ始める。クリーム色の薔薇が咲き誇りはせず、此処にも乾いた汗のような乾いた不味い風味がある。
 一息に薔薇が退行して別の花が浮び始め、ふと、こびりつきそうな靴下もほぼ居なくなり、先ず緑が濃くなり花の正体を隠す。緑色の靴下珈琲にクリープを入れ匙で回したような渦巻きが見え、緑か青緑か、どうしてかトリニダッドなのにモンテクリストの風味を感じる。青薔薇色の空に金木犀が曇る。青薔薇色の空という遠景に金木犀の近景が映えれば良いのに、近景が曇って、遠景は遠景らしく覚束ない。
 花の芳しさ増す。緑も増す。花の色は緑に潰される。これは葉巻としては珍しい景色で、この景色がどうなるのか非常に気になっている。非常は本当に非常で、頭が痛くなるほどいま集中力を上げている。花はますます芳しい、しかし正体不明、緑はやや退行。緑が花に塗られたかと思いきや、緑の鉄分が迸る。ゼラニウム。
 この景色には、思えばずっと、幽かに何処かの蜂蜜のような、よく熟した枯葉の甘みが奥ゆかしく湿ってもいる。何処の蜂蜜だろう、蜂蜜は花だから、元の木阿弥のような気がしてならない。
 花の幽霊か。茎の幽霊か。
 此処まで清酒を併せていたが、一転しようとワインを抜栓しておると、コルクスクリューの隙に火種が消失する。消失までの間が短すぎる気がしたが、再着火するとシケモクどころか予想以上に色伊吹を返し、いま初めて美味しく、美味しく、美味しく、それでも幽霊に手を伸べて空を切る。
 葉巻の所為でワインの香味がよくわからないのだが、どうやら久しぶりにドンピシャ好みのワインらしい(?)。(Chateau Larmande 2010)
 葉巻がワインを高め、高まったワインが葉巻を少し高めたのかもしれない。
 幽霊に手を伸べて空を切る。花芳しく、クリーミーでありながら、ゼラニウムが効いている。
 ハバナ葉は土や革より明らかに木質で、やや杉を煮る。今になって杉が出始めたのかもしれない。少し酸っぱくなる。焦がし杉の味わい。
 中盤なのか終盤なのか葉巻が大きいのでよくわからないのだが、ますますわかりにくい香気が強まってきて、「樹齢四百年の杉盆栽」という存在しない物を手に取るような感覚を喜ぶ。
 この変テコな杉盆栽は樹皮やや厳しく、それでも爽やかな杉で、杉なのにゼラニウムや木犀や何やかやの花を可笑しく付けている。わらってしまう。
 モンテクリスト風の青緑はとっくに消えている。全貌はトリニダッドの形に纏まりつつはある。
 赤ワイン美味しい。なんだこれ。深く記憶に根ざしながら、浮遊する美味しさ、葉巻の所為で美味しさも不味さもわからない奥ゆかしさがある。
 ワインの奥ゆかしさには美人が隠れ、葉巻の奥ゆかしさには醜女どころか誰も居ない神々しい厳しさを感じ始める。神社に参ったような風味がし始めた。華厳の神社にして、足取りはやや軽い。
 この葉巻は、まさに全盛を序盤でもなく中盤でもなく最終盤にとっておくものなのだろう。最終盤への太く太く長い長い階段を登り詰めつつある。したがって登った先は槍の先っぽのように短くなる、どういうことになるのだろうか。
 ますます近づいていることは確かなのである。ゼラニウムの鉄と血が近づいている。
 登った先に厳かな社殿なく、狭い頂上はこじんまり地蔵、地蔵の背中の階段を下り、見知った杉の列を脇に下り、帰りはヨイヨイ急速に下り、ああカブトムシ、ああカブトガニ。ゼラニウムの自宅のベランダにどこでもドア。
 吸っていて苦はまるでなく、終りには辛味が呆れるほど元気で、かえってココまでの優しさを感じ、新鮮で、花や茎の正体はよくわからないままながらに靄は晴れてヨイトコサ。ヨイトコサの序盤。ヨイトコサの序盤にしてよくわからないが大団円。踊り手はまだ少しの汗。変な映画を見た時の心地を思い出した。そんな映画を見たことはないのかもしれない。見ていなくても、確かに変な映画と変な映画のコラージュ物である。
 難しい香味だった。明日は目覚めて頭が痛いだろう。人に読ませるべきでない頭の痛い文章が出来上がっただろう。全てを真空保管のせいにして、次に期待できなくない味わいだった。

 トリニダッドは10本入りではなくて12本入りなので、計算ミスに違いないものの、ややお得感がある。

忍者ブログ [PR]