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  源氏物語「葉」
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|RAG ABR 18|5 1/4 x 44|cigarOne|¥24190/24|重量:−1(9.62g)|算出:+6|香味:+4|好み:+1|計10点|

 到着日に開封し一服する。
 最初の一口で感動が来た。懐かしいような、不味いようなーー今では不味くないのだがーー初期に色々な葉巻の一口目で感じていた恐れおののかせる緊迫の味わいがある。パイナップルを食べる時にも似た緊張が漲る。パイナップルの日々から随分経って、今更それを感じるのだから、人を脅すパイナップル頭の香味成分がここに極大化しているのではないかと疑う。そのまま三口ばかり進むともう、ちょっと異常なぐらい味が濃い。パイナップル頭は味の濃さの布石として恐れられたのか、たしかにあの頃、あれは空脅しで、三口ですんなり葉巻の軽やかな風味に移行したものだ。これは脅しから空想される香味のまま移行し、現実に変じて重く垂れ下がり、しかし恐れのみを減じさせ、けっして醤油にはならないような、香ばしく煎られ醗酵させられ煮詰められた豆満帆の味わい、そこに激しい辛味を伴う。
 これまでコロニアレスはほぼ経験がなかった。二箱ほど買ったことがあるレイジェスも序盤は辛味が目立ったから、辛味についてはトリニダッドの小品の特徴なのかもしれない。コロニアレスはそこにレイジェスではあり得ない巨大な旨味を伴い、どちらかというとトリニダッドよりも一番濃い時のコイーバを思い出す、それでもそこはかとなくトリニダッドらしい杉の風も漂うという、トリニダッドがコイーバに近接するのはこれまでも時折経験したことである。
 2センチも進むと急に穏やかな春が訪れて、春の嵐の気配だになくなってしまう。辛味を置いて豆だけは間もなく戻り来る。
 軽やかに甘いカスタードが葉巻洞窟の芯を通る。全体が異様に濃いので、カスタードの軽さに物足りなさは感じず、蕾よりは開いていた花を抑えてカスタードが通ったことに再度感動を覚える。
 ここから花も負けない。はっきりほころび始めると一緒に緑の茎の匂いが刺さる。この辺りは、花、カスタード、緑、豆、四種のマーブル調で、配合の割合が不規則に変動する。乳幼児の息の匂いなども加わる。緑色の茎は蜂蜜を連想させる要素となる。
 強烈に甘い花が来る。この扱い易いような小柄な体躯から、こうも美事な満開に至るとは、壮観への夢がひょいと結実してしまい、これはなんという名の花なのだろうかと覚束ない不思議な気分になるのである。菜の花、オリーブ、アブラナ、若干油っけがあるようである。爽やかな油。それでも葉巻の煙は金木犀が一番近い。その金木犀にしても夜の感じは催さずに、昼にバニラの風が優しく吹いている。豆っぽさも失わないが、胡麻っぽさはない。植物の純粋な香味に詳しい人はなにを抽出するのだろう。ふと、エンジンオイルのような風味が感じられているのではないかと思いつく。最初の一口は、実はやや古びたエンジンオイルだったのではないか。
 豆が再度濃くなり、とともに嫌味のまるでない爽やかな揮発性を発揮する。普通、揮発性というと木のえぐみを伴うところ、ほとんどミントのような効能を示す。上等の蒸留酒や白ワインから香る青林檎のエステル香かもしれない。こってりしつつ、こってりしたものがこってりしたものを自家洗浄するような。ショートケーキに於ける苺の効能(最近ではショートケーキに於けるシャインマスカットの効能)とは少し違って、スポンジとクリームとフルーツはぐちゃぐちゃに混ぜこねられている。だいたい、ショートケーキのみには収まらず、このデザートというもの、ここでは端から砂糖を除外した、破廉恥なほど繊細微妙なデザートらしからぬミルフィーユで、菓子とも言えず、食事とも言えず、その中間を浮遊している、それらすべて花の下。明らかに吉野の桜ではないけれど、この変な花を咲かせる吉野のような山ならぬ峡が外国のどこかにはあるのではないかと見える。
 終盤は全て落ち着いて、雑味も無く、うまいうまいうまいと心で連呼する。ちょうど良い薄味に変って、うまいうまいうまいと連呼する。濃い方がうまいに違いないのに、薄味がなぜかうまいのである。うすめ液になにか妙な液を使ったに違いない。……
 ハバナ慣れし過ぎていたところ、珍しい瀟洒な豪壮味で、刻々とする変化に久しぶりに集中させられ、めくるめき、小品であることから火の進みも早く何か切実な思いを催した。
 ただ、この一本にしても、これまでの全てのトリニダッドからも、モンテクリストのような色気はあまり感じられない。と思った矢先、煙を吸うと、生気を吸われた。序盤中盤終盤をはや思い出に変えてはや懐かしませつつ懐かしみに終らない、ミントとカスタードの残香の美かと思う。
 最後の一口でサンドペーパーで傷ついた豆の素朴な風味が現れてそそり、最後の一口だったが一口が十口に膨らんで、延焼して指の火傷まで至る。金木犀の残香まで溌剌と加わり、もうそろそろ夜になり、静かにめくるめいて美味しい。いい加減もう終るはずなのだが、まだ終らない。最後の最後の最後にはなんと炊きたての米の旨味が加わる。こうなると、私は反省する者のようにもなって、過小評価を覆したくなり、モンテクリストの青みがかった色気に近しい色気が米櫃の前からあったようだった。モンテクリストではない色気にこそ、より不思議さが増す。米に青い色気が纏い付き、食品に青色は頂けないのだが、これはもう美味しい。色気とはそもそも気持ち悪いもの。
 昔から「トリニダッドは大吟醸に合う」と言っていたのはもしや米が起因だったのか、でもこのコロニアレスに限り大吟醸の味わいを殺すかもしれない。

……

 到着日開封の成功例だった。最近評価が甘く香味点+5を連発していた気がするので、+4にとどめてしまったけれど、直近で+5を与えたダビドフゴルフよりもずっと好き(ただゴルフの花のインパクトには物凄いものがある)。こういう場合のために好み点というものを設けていたらしい。
 うむ、2018年4月の製造で、製造から7ヶ月しか経っていない。「フレッシュロールまたは最低一年寝かせろ(三年?)」という葉巻神話は此処に崩れる。ラ・トローバ(同一工場製)も同様に若くて既に美味しかった。到着日の暴れん坊なので今後どこかへ落ち着いてしまうとは思う。
 この葉巻は飽きにくいものでもあるかと思う。常備品の最有力候補にして、実際に常備してしまったらどうなるかと考えてみる。他の葉巻を不味く感じてしまうということにはまづならない。この葉巻に飽きるということには多少なると思う。それは残念で、やはり常備品はパルタガス・ペテコロエスが一番安全な気がする、飽きたけれど。パルタガス・ショーツ50入がずっと気になっているけれど、小さいくせに割高だし、美味しいとしても小さ過ぎて吸うたびに物足りなさが残りそう。コロニアレスのサイズこそ万能たるべき常備品に最適という結論に至りそう。
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