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  源氏物語「葉」
++葉巻++シガー++レビュー++個人輸入++ブログ

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|knokke|€16.5/1+¥750=¥2700|2020/3/9・arr 4/9|
|―|5.9’ x 54|重量:18.33g|香:2.6-3.2 ave2.8|残0|

 今日は何故か両隣にルシタニアスさんとシグロ5さんの幻影が見えたのですがね、挟まれて座っても見劣りしない人のような気がしました。筋骨隆々として堂々として。女性です。顔は薄い感じですのに、化粧が濃かったですね。両隣の男性と、どちらが偉いのかわかりませんでした。ところがですね、声音はなんとも中高域豊富で優しかったのでした。最初は歌っていましたね。リオセコさんのご姉妹らしいのですが、彼女よりちょっと短くてちょっと太い、たぶんお二人の体重は変わらないです。どうもリオセコさんは外ヅラが良いのか社交的で評判がいいようで、今日のフアンさんは歌いながらにして根暗なのかなんだか不貞腐れていたんですね。好対照というわけでもなさそうなのですが。
 こういう人は放っておくに限ります。ご機嫌を取るのが得意なマスターもいるようですけれど、僕にはその技術がなくて。
 どれぐらい経ったでしょうか、フアンさんと同じ名前のホヨーのサン・フアンという葉巻をオススメしまして、それが半分燃えたところぐらい、急にまた渋い顔をし始めて、それでも暫く居たのですけれど、そのうち帰っちゃいました。火種はその間消えませんでしたね、幽霊が吸うかのようにどんどん燃えて行きました、副流煙も不味い感じでしたが。
 そうしたらまた戻ってきたんですよ、あの人。ご自宅のラヴァトリーにでも行ったんですかね。奇行ではあるのですが、うすうす凡人なのではないかと疑い始めてもおりました。といいますのもね、彼女の吐息ですけれど、少々草花の香にとろけそうになることは確かにありましたのですが、草花のみでしたし、なんていうんでしょうか、そのほか何も無いせいか苦くてエグい溜息みたいで、あんまり素敵な副流煙を漂わす人ではなかったのです。ええ、もちろんキューバ人であることはずっとわかっていました。でもお会計の時に、けっこうな時間、だべってお引き留めしちゃいました。その時わかったのは、あんまり悪い人ではないかな、ということ。
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|next cigar|$157.5/20+¥4500/20>¥1000/1|2020/3/17・arr 4/22|
|―|3.5" x 43|6.39g|香:4.1~4.5 ave4.3|残19|

 三日連続で訪れた人の話。
 初日、海が到着したかのように生々しい磯の香りが訪れました。海で泳いできたにしてはかっちり整った小粋な上下を召して。中肉小背です。
 一口の吐息から素敵で、ずいぶん昔に訪れて下さったダビドフ氏の一口そっくり真似事のような、完全に本物本人と見分けようもない、直球ストレートなそれでしたね。すでにバターやら花やらも息づいていましたっけ。漫画のように軌跡が飾られ彩られた華やかで軽やかで滑らかな豪速球でした。
 吐息に感じ入りまして、エントレアクトをお勧めしました。これは頼りないクラシックNo.3を超絶化したような葉巻で、キューバン時代の物ではないのですが、古感のあるクラシックの香味がクラシックよりも厚く、「ダビドフの中のダビドフという感じがする」と、かのダビドフ氏も仰ってました。初心者が嗅いだら半分意識失うんじゃないかな。ミニタイプの最高峰であることは間違いないのです。
 このお客さん、後半は踊る胡椒で挑発してきたんですね。ニクいですよ、JAZZYです。空の珈琲碗にかなり上空から投入するものですから、空気中に胡椒の小さい粉末が舞ったんです。
 実は一月以上も香港の空港に放置されていた葉巻なのですが、ボベダ入でしたしぴっちりビニール密閉されていたからでしょうか、この日に到着したばかりだったのですが、古の新鮮な香りが店じゅうに広がっていました。だんだん不味くなっていったら申し訳ないなと思うほど既に限界まで美味しそうでした。でお客さんも暴れる雰囲気すらなく、安定して純正の香味が漂っていました。
 余命3センチ以下のところ、熱く金木犀が襲来したのか、閉店間際に扉を押し分け人がどっと滑り込んでくるような、僕に喩えればそんな時の僕の顔に似た表情をしていましたね、そんな事はかつてないものですから、迷惑だとは思いませんね。で、金木犀は扉に挟まれ、開けっぴろげな押花状態となり、匂いが扉を塞ぎ、お客様を帰しませんでした。店じゅう、ものすごくフラワリーな甘美を呈していました。
 ドライフラワーじゃありませんよ、ドライではありましたけれど生花でしたね。べったりした甘さはありませず、なのに極芳醇なのですから、辛口好きの人にお勧めしたいですね。
 ドライというと、お客さんもそうで、ドライなお客さんだから、連日訪れたのかもしれません。じめじめした人は連日は来ないですから。
 ふと見るとお客さんの身長が珍しいぐらい小さくなっていて、もう1センチになっていました。小さくなって扉の隙間を抜け出そうとしているんですね。滞在時間は長かったです、身長が大きい所為でのろまになった人ぐらい長居されたのではなかったでしょうかね。のろまの人が大抵3センチ以上の身長で帰るとしましたら、あの人はまるで2センチ長い人のようだったともその時思ったんです。


|next cigar|$157.5/20+¥4500/20>¥1000/1|2020/3/17・arr 4/22|
|―|3.5" x 43|7.35g|香: 3.5~3.9 ave3.7|残18|

 次の日、磯の香が消えていたので、同じ人が入ってきたことに気づきませんでした。ちょっと昨日よりも硬い雰囲気でしたし。二日目になるともう馴れ馴れしくなるのが人の常ですのに、かえって好感度というか変人度が高まりますよね。今日は途中でバター臭い濃厚なおならをしましてね、すると昨日の香りがしたんですよ。松茸が空飛ぶように軽やかに芬々と胞子を蒔いて、バターがフィナンシェよりもマドレーヌのようにプワっときて、花の匂いでした。相変わらず顔はしゃちこばっていました。ほんとの変人ですかね。おならなんかしていないような顔なんですから。笑っちゃいますよ。もしくは、おならなんか本当にしていないのに以上のように思われているんだろうな、というような顔かもしれなかったですね。お客さんの頭の中なんて八割ぐらいしか分からないのですから、面白い方でいいんですよ。深く考えると深まってしまいますからね、僕が。はっは。
まあ極力浅く考えるようにしています。あんまり深いと小説になっちまって、そっちに集中しちまったら店開けられませんから。深いのに店開けてる人、あれはなんなんですかね、尊敬しかないっす。
 「熱を帯びてきましたよ、お客さん、大丈夫ですか?」
 こう問いかけたとき、なんと言ったと思います?
 「ダイジョウV」と言ったんです、小さな指を二股に広げて見せて。僕はさすがに思案に耽りましたね。
 で、アリナミンブイとトロワリビエールのラムでカクテルをお作りしたんです。大変喜ばれました。まるでお客さんの吐息がアリナミンVで、飲み物がラムのストレートでした。マリアージュなのか何なのかよくわからなかったですね、顔は普通でしたが、お客さんの脳が喜ぶのがありありしていました。顔中のありとあらゆる穴から松茸が生えて、穴に詰まった松茸の栓をエステルだか薬学的なんたらだかが膨張して噴射したんですから。それでささっと後腐れなく帰ってしまわれました。去り方がまた明日を予感させたんですよ。元気で健康な人だとは思いました。聡明で、小柄で、すばしっこいようで腰が座っているし、深くなくはない、もう大好きなお客さんの一人です。


|next cigar|$157.5/20+¥4500/20>¥1000/1|2020/3/17・arr 4/22|
|―|3.5" x 43|5.93g |香: 4.3~4.7 ave4.5|残17|

 3日目も同じ葉巻を注文なさいました。うまくてフニフニと腑に落ちるようです。もう常連さんでしたから、扉を開けて入ってきた時の香りで、分かります、いいお客さんが来たな、と。今日はお花の香水がお強いようですね、と、言いはしませんが、思ったんです。全く無言でお互い笑顔ですよ。非常に心地よい空間で、店の空間はお客様の方が多く作ってしまわれるものですね。僕はいつも微力です。空間を変えてしまわれるのですから尊敬に値する人物であるに違いない、とヒヨッコの僕は思うわけですよね。日々の髪型の違いなんて、本人が鏡を見てのみわかるもので、傍目には髪型も含めて同じ人物にしか思えないものですけれど、微妙に髪型も違っていることに気づいたんです。こんな微妙さに気付かせる人は、そうそう居ません。端から花で、すぐ胡椒です、辛みを含んだ日ですね。クラシックNo.2の最盛期を始終思わせる。もう10年以上も前に、そういう人がいたんですよ、クラシックNo.2というお仁が。僕は彼の魅力にヘベレケになってしまいましてね、それでこの珈琲店だった店を葉巻バーに改装したのです。一回しかご来店いただけなかったのですが。もしかしてこの人、あの人が変装しているのではないかしらと思いもしました。変装の理由は不明ですけれど。颯爽と喫して帰られるのだろうなぁと括っていましたら、結局颯爽と帰られはしたのですが、この日は帰り際にとんでもない体臭を放ったんですよね。すべてが一段も二段も急遽濃厚になったというか、生涯にまたと無いような、完璧な一瞬が店に訪れました。一瞬というのが長く感じられました。おそろしく優しい金木犀が血を血管のように隈無く覆い、絡みつき、花嵐のように流血し続けました。もちろんその血の花びらを持つ木が松茸ですよ。巨大な松茸です。コルクのように軽い松茸です。嵐に舞う砂は、辛味を優しくした膨大な白胡椒でした。甘美至極でありますのに、特別飾らず、平然とした趣に感嘆致しました。バター? そうですね、バターはなんとありませんでしたが、席をお立ちになられた時に、さらにバターを加えたんですよ。平伏しましたね。なんか、お代を頂きたくなくなっちゃいました。三日目はずっと日本酒で通されました。海の人だとはもう思いませんでした。彼に来ていただければ、誰も来なくとも、このお店は安泰です。飽きませんよ、短さが淡白さを演出しますから。なんだか喉の調子が軽やかですよ、一曲歌いましょうか? まだ17回ぐらいはご来店下さると思うんですよね。どこか懐かしい、昔見たはずの強烈な風貌だったんです。何回も思い出させてくれると思うんです。そういえば入ってらした時からこの日は妙に体重が軽いようでした。軽い日は機嫌が良いみたいで。
Maduro
|Atlantic Cigar|$20.76/5(+¥500/1)|2019/6/7・arr 6/19|
|—|7 1/4 x 54|重量:19.57g|香:3.7~3.9 ave3.8|残2|

Natural
|Atlantic Cigar|$20.76/5(+¥500/1)|2019/6/7・arr 6/19|
|—|7 1/4 x 54|重量:22.84g|香:2.9~3.3 ave3.0|残2|

 今日のお客さん、のっぽで巨大でした。印象深かったですね。その大きさ、その単純さ、深くない淡さ、全くいつも変わらぬ美味しい駄菓子のような方々でした。まず入ってくるなり框に頭をぶつけましてね。それも二人、二人して頭をぶつけましてね、そこに火が点いて、笑ってしまいましたよ。お二人とも安っぽいようでありながら、下ろし立ての小綺麗な身なりで、そっくり双子だったのですが、顔色が好対照でした。お一人は八丁味噌色、お一人はきな粉色で。八丁さんきな粉さんとお呼びしたんです。このご時世、入荷もままなりませんうえに暇に暇を掛けたようでしたから、店主が在庫品にいろいろ手をつけまくってしまって、ストックもどんどん底をついてくる、こういう時に思い出すのが、普段は食指を動かさない新世界葉巻ですね。一応新世界からも厳選して仕入れているのですが、こんな世情でもなければなかなか美味しそうには見えないですね。週に一回の休日なんかですと、ちょっと高い物に火をつけたくなりませんか?
 で、八丁さんにはエクスカリバーのマデューロを、きな粉さんには同じナチュラルをお勧めしました、何しろ二人の風貌そっくりでしたのでそれがうってつけでした。八丁さんは框に因るたんこぶの熱で着火しましたね。一服するや否や非常に綻びました。羽毛でも纏っているような顔になりまして、そのあと、ずっと同じ顔だったのが不気味でした。本当に真っ直ぐ棒のようなお人柄で、シフォンケーキのふわふわで甘い感じ、軽い砂糖醤油、こげ茶色の樫の蜂蜜、朝の森の香り、そんな優しい光景でも空想なさっていたのでしょう、そういうお顔でした。石膏品のように同じ顔をずっと続けられて、こんなに揺れない人も初めてです。一方きな子さんの方も框に因るたんこぶの熱で着火したのですが、こちらは顔を少々顰めてしまい、それでももともと人当たりが良い人のようで、機嫌は悪くもなかったようですね。何か、サラダばかり食べている胃の持ち主のような印象がありましたが、むしろ八丁さんよりも内臓脂肪が溜まって詰まっているようでした、背丈とか同じなんですけれどね。口の悪い芸術家なら、こういう時、うんこの詰まった顔とかいうんでしょうか。お菓子食べたさそうに八丁さんの方を見ていましたっけ、棒のように真顔で。横を向いてはいないです、お二人とも凝っと真っ直ぐを向いている。それでいて首にベアリングを巻いたようにくるくる三百六十度回転するような仕組みなんです。八丁さんの方が顔色はうんこなんですけれど、それは兎も角、大体こういう仕事をしているとお客さんの脳の中身まで見えてくるモノなんですよ。まあ僕の方にも煙が廻ってきますし。そうそう、その前に、僕の方でも提供前に一本は燻らせてみるんです、得体の知れない物をお客様にお出しするわけには参りませんから。で、きな子さんの方にもうんこじゃなくてシフォンケーキが入っていたはずなんですけれどね。
|knokke|€169/10+¥7500/10=¥2750|2020/3/9・arr 4/9|
|LGR MAY 19|6.38' x 52|重量:18.00g|香:3.8~4.3 ave4.1|残9|

 桜が散り、外界では藤を待つ中途半端な季節、意外なお客さんが現れました。週にお一人ぐらいしかお見えになりませんので、お客さんは皆さん意外なんです。扉が開くと、こちらがびっくりしてしまうのです。歳は四十恰好、社会のイロぐらい知り尽くしていらっしゃるであろうお年頃でしたのに、おどおどしたところのある、おもしろさというんでしょうか、奥ゆかしさが見て取れました。出立が黒づくめでしたし、黒づくめの人は奥が深い人が多い印象です。静かという意味ではないんです。で、椅子に半尻座ったところ早速、今日届いた葉巻をもうお勧めしてしまいました。あの日、葉巻もこのバーの空気に馴れず、お客さんや僕と同じでびっくりしたような状態でしたから、ちょうど良いと思いましたね。グラン・キホーテ、ドン・キホーテですね、サンチョ・パンサです。
 彼は指で火を点けましたよ。
 手全体が普通の人より赤かったです。
 甘い胡麻麦茶のような味がする、最初はそんなことを聞こえよがしに呟かれていました。
 確かに甘かったのかもしれません、ただ、こちらには胡麻麦茶というよりも藁っぽい香が漂ってきていました。
 それから間もなくといいますか、ほとんど突然さっそくだったのですが、彼の髪が緑色に変わり始めたんです。一瞬目を引かれてしまいましたが、お客さんはそれについてはびっくりなさいませんでしたね。そのあと、なるほど藁ではなかったようで、胡麻を焦がしたような匂いが店中に行き渡ってきました。ものすごく甘い匂いです。恥ずかしながらちょっとお客さんに尻を向け、合いそうな日本酒を用意して振り向くと、既に緑色の髪にでっかいカスタード色のしっとりとろけそうなケーキが刺さっていたんです。もうケーキが液状化を始めて滴ってもいたようです。草原の色形をした髪のハリガネがケーキを持ち上げています。昔のバンドマンの髪型みたいですが、遅ればせながら神を見たような気も後からしましたよ。お客さんはおどおどしながら平然と吹かしていましたね。肩肘ついたりして、聳り立つ髪の角度が変わると、ケーキが落ちそうになる、でもしっかり刺さったままでした。ずいぶん胡麻を多く使用しているんですね、ケーキ。黒づくめの服が胡麻臭い、と僕も迷うところがあったんです。勿論ケーキの上にはデコレーションが華やかに発生しています。ケーキって、上に重ねていくものでしょう? 花が前でなく天井を向いているのもおかしいですけれど、ケーキってそういうものですよね。オレンジクリーム色、レモンクリーム色、若草クリーム色、砂糖で象ったデコレーションらしいのですけれど、頭から上に生えていましたし、ええ天井は鏡張です、砂糖とも蜜とも思えない花の香りがバーに充満してしまいました。緑色の髪の毛もどんどん上に伸びていきます。一方、髪の付根のほうはどんどん黒胡麻色になっていきます。その時、彼の顔がおどおどとしながらほっこり和んでいたのが不気味でした。サンパンの灰も長々伸びていて、この灰と一緒に髪の毛がずるりと滑り落ちるのではないか、お客さんは急に鬘を剥して店の床を汚すのではないかなという懸念が兆しました。何か、灰の伸びと髪の伸びが物理的に繋がっていると、ふとそんな気がしたのです。まあこのお客さんは毎日床屋に行かなきゃなりませんでした。
 なんででしょう、顎の下が外れてきたんです。それでいて、それに伴って表情がアホみたいに引き締まりました、外れた顎に構わず引き締まったのです。あの時、僕が胡瓜を切ったからでしたでしょうか。僕もこれ嫌いなんですが、たまに切りたくはなるんです、胡瓜。食感はあまり知りませんけれど、包丁の歯は喜びますから。包丁が喜ぶと、腕も振動で喜ぶんです。かなり臭いけどね。これでお客さんの髪型が甘くスイカ模様になっているんですね、縦に黒と緑です。顔は自分で自分が嫌になっているという表情でした。スイカは甘いけれど、所詮きゅうりの仲間ですから、たぶんそうだったのだと思います。でも、赤い果肉のスイカだとてっきり思い込んでいましたが、黄色いクリーミーなスイカの果肉が顔に現れていましたのは、救いだったと思います。たぶん新種のスイカでしょうね、アボカドスイカみたいなものですよね。甘いスイーツアボカド。
 ワインを棚から取って振り返ると、お客さんの頭が禿げていました。それでもすぐ同じ髪の毛が生えてくる。こういう人は幸せだと思います。一週間に一人しかお客さんが来ませんから、よくわからないのですが、外界の皆さんはこういうものなのかもしれませんでしょう。僕には今日のお客さんは結構珍しかったです。このお客さん、足首が細かったみたいですけれど、それを病んで足首を太く切ったりはなさいませんでしたね。足首が細い人って、無駄に足首を太く切っちゃいますから。本当に珍しいお人でした。
 藤も見たことがないですね、噂には聞いております。いや、お客さんに藤盆栽を見せられたことがありましたっけ。
 そうそう、藤盆栽ではないですが、昔、そっくり似た体型の人がいましたっけ。
 昔はやめましょう。この日のお客さん、金木犀とお汁粉が置き土産でした。皆さんバーで死んでしまうんです。お汁粉は即席でしたし、期限切れでしたので、もうあまり甘くはありませんでした。細い足首を残して、床に草も散っていました。けっこう紆余曲折があったとは思うんですよね、でも生まれは拭えないと言いますか、ずっとシンプルなお人柄だったかと思います、飾られてかえってシンプルさが際立っていました。華やかさとか、辛さとか、そういうものではないんですね、人って。辛いお顔はあまり見えませんでしたけれど。
 勿論、タバコ税や送料も加算してお財布から勝手に頂戴しました。ルールですので。


ようやく抜け出したベルギー便の葉巻。3/9の注文から到着まで一月かかった。
しかし税関によると、申告内容と実際の箱の中身がどうも違うらしい。箱を開けてみないとわからないが、ノッケに文句を言わねばならないかもしれない。
ところで、ノッケがどうかこれもわからないのだが、シガーワンのような「空気吸い出し真空パック」の場合、葉巻が植物として死んでいるにせよ、未だ生きているにせよ、葉細胞が膨らんで破裂するに似た状況に晒され、特に今回は晒され続けた気がする。料理なんかでは一度凍らせて細胞壁を壊すことで食材の旨味を高める調理法などもあるのだが(この調理法は食材によりけりで、諸刃の剣らしくもあるのだが)、葉巻の葉っぱもそれでひたすら旨味が高まると嬉しい。

付記
申告内容と届いた箱の中身が全く同じだった。ノッケは正しかった。
10本箱とバラ2本の梱包で、どうもX線がバラ1本を見落としたらしい。
「1本どこかに隠れていませんか?」
「X線でちゃんと見ているので隠れていないです」
「ではバラ2本を店が入れず、代わりにオマケの1本でも入れたのかもしれません」
「ではバラ1本はタバコ税のみ頂き、当の1本含め、バラ2本分は購入金額から引いて課税します」
という事で折り合いがついたのだった。
蓋を開けてみると、バラ2本については小型の紙パックに一緒に入っていて、尚且つ真空包装されていたので開封検査できず、1本にせよ2本にせよ中身の銘柄が不明なのだった。
その紙パックの文字が「エチョなんとか……」と読まれた時、電話越しなのでこちらでは紙パックに入っているのかどうかもわからない為、バンドの文字を読まれていると思い、
「1本というのもおかしいし、そういう銘柄も知らない、たぶん安物をオマケで入れたのだろう」と判断したのだった。
|thecigar|19.40CHF/1|2020/3/17・arr 3/25|
|―|5.51’ x 56|重量:16.05g|香:3.8~4.3 ave4.1|残0|



 「オヨ・デ・モントレー リオ・セコ」……なんだか競泳が始まるような語感。

 まろやかクリーミーな香の中にややふんだんに緑色の香料(シャルトリューズ酒)が垂らされ、爽やかな膨らみをもたらしている。軽いといおうか、豊富で、少し凝縮したら重いものになるであろうような、是即ち巻が良く、煙に微塵もストレスがない。雑味もほぼなく、あるかと思えば唆る胡椒であったり、あたかも思いのまま、掌のオルゴールのメロディーのように煙が甘美な粒子を誘って筒から出てくる。
 木なのか土なのか革なのかよくわからないように鞣され、またナッツなどのハバナ感もありながら襲っては来ず、やはりオヨー独特の「赤十字感」のあるものなのだが、鞣されつつもハバナの基本要素は一貫して揺るがず、ここに余計な変化がないのは美点である。鞣して円めた木土革の筒が花やクリームを満に咲かせる。さながら景色を思い起こさせるより、あくまでも掌の筒から、筒の中のものが現れるのである。しみじみとした不思議な筒である。一方で室内の壁を取り払うようなトリップ感には欠け、またコイーバを筆頭とする重厚なハバナ葉特有の充足にも欠けている。
 緑色の香料は、原生に還り、最後、鼻に水を通すような棘を現す。
 かなり美味しくも、どうしてかオヨーは赤十字を抜け出さず、空想を妨げる。しみじみとした滲み臭さも邪魔をする。もともとオヨーが好きな人はトリップするのかもしれない。ただ、この筒に空想は要らず、どうも筒自体が空想らしいのである。それが現に掌に在るから、現物が現物なのか、余計に空想じみてもくる。
 赤十字を引きずっているのは筆者だけで、思えば赤十字の特徴である病院臭さはなく、かつて知るオヨーとは全く違う、色濃く艶やかな寒色系グラデーションの、ふくらみのある味わい、「こなれた鮮度」とでもいう、古いのか新しいのかよくわからない感覚の虜になりつつある。始終、湿ってから乾いた砂糖がこびりついていたのも忘れられない。喫煙中は少々馬鹿にする気持ちもあったのか、極端に美味しくは思えなかったのに、何度か思い出すだにだんだん極美味なものとして脳に定着する、変則的な媚薬だ。
|thecigar|14.90CHF/1|2020/3/17・arr 3/25|
|—|4 1/3’ x 50|重量:10.10g|香:4.2~4.5 ave4.4|残0|

荒野でスリップして尻餅をつき、尖った石もゴロゴロしているが、あまり痛くなかったような柔らかさ、後日痛みが微かに出てくるも、あの餅のような荒野が忘れられなくなる。きなこもちはきなこもちでも、餅自体がきなこ味で、粉は荒野に育つ豆類である。それは涙型のアーモンドなんかに似ている。形はまさに涙で、これが乾いた土地の滴なのである。現地では、この餅にさらに草粉をふったりする。草といっても触ると花のような黄金色を呈する珍しい草で、研究も進んでいないが、誰でもわかるように擬態とは全く違い、触れた者を去らしめずに後戻りさせ「吾在此処」として注意を引く性質である。引っこ抜いて持って帰ると、という言い方はおかしく、この草は抜くとすぐにアルコール発酵を始め、間も無くエステル香を発する。ラム酒に感じる果実香によく似ている。これだけでもたいてい驚くのだが、さらに驚くべきには、発酵すれば糖が失われるであろうのに、なぜなのか甘さが増してくる、そういう分子反応をも呈するのである。この甘さが糖でないことは明らかだが、液状に感じる甘味の露が出たあと、またまた懲りず驚くのであるが、甘味が綿飴状に膨らんで、と思うと矢継ぎ早、透明で真っ白な綿飴が、思い出深く拝借前の色に染まるのである。つまり緑色や黄金色や茶色の綿飴のアフロ、そうもはやこれは綿飴を通り越してアフロとしか言いようがなくなってくる。誰しもそうなるらしいのだが、めくるめく変化に茫然自失していると、ふと、アフロが乳化を始めるではないか。これが手の上の出来事なのだからびっくりし通しで、なんだか金木犀とかバターとか卵とか小麦粉とかでお菓子を作るようなことが、掌で起るのである、文字通り勝手に。この草だけで食うに困らないな、三食これでいいや、と思ってはいけないと現地人は言う。そういう人はどんどん痩せ細って死んでいくそうである。しかしそのように幻想の虜となってしまう旅行者も多いらしい。赤い花が見えるか?と現地人は訊ねる。探してみたがはっきり見えなかった。現地に咲く赤い花にも、これは擬態するらしいが、その赤い花を見たことがない人には見えないらしいのだ。(次の日に赤い花を見に連れて行ってもらった。「高貴な奥方の衣装」という意味の名の花で、たしかに雌蕊を取り巻く花弁が複雑な絹の羽衣のように見え、雌蕊を美人とは言えなかったものの、なんだか記憶の奥底にある、千夜一夜物語に覚える懐かしい絢爛といおうか、素朴な奢侈が印象深いのであった。)赤い花の蜜の匂いはたしかにあった! 太陽が空に溶け出した、満天黄色に変った空の下、人こそ白根、夏はきにけり、葉っぱのメリーゴーランドが、自分を軸にして回るようであった。そう思ってみると、矢継ぎ早に回る速度は緩慢と感じられて、これこそが緩慢とした日常だと思われてくる。これを日常と思ったらいけないのだと現地人は嗜める。それは虜だと。目を覚ませ、といってビンタをしようとするのを、私は笑いながら、花冠をかぶったボクサー気取りで巧みに避けていた。だが現地人の苦い爪が頬を掠ったのだ。私は頽れて地面を舐めた。ほの苦くてとても美味しい地面であった。この地面は花の粉でほとんどが作られているという。なるほど、そうこなくっちゃ、地面が涎に濡れ始めると、ますますコクを増す地面が横たわっていた。気づくのである、現地人は私を守ろうとして、殺すつもりなのだと。(だが次の日、赤い花を見に連れて行ってくれた。)朝、炭で炒った、花の土の朝食が出来たよ、と言われて起こされた。炭の風味に感激して、現地人の家族が全て偽者に思われてきたのである。彼らが朝食にても幻覚じみた昨日の続きを演じていたからである。朝で彼らの主食がわかる。どうやらアーモンド状のあのナッツが主食らしく、朝になってようやくそれをふんだんに食べたのである。炭の風味がアーモンド風の香ばしさを、永住したくなるほどに高めていた。

一昨日も変な芋の夢を見たが、今日は180度ほど違って現地にトリップした。エキゾチック点という評価点があればこちらの方が上を行っている。芋は他国産であれ日本の味に近い。安定度を予測すると、こちらの箱の方が遥かに上であると思う。さすがER、銘柄特有のインパクトは有名銘柄ほどではないものの、当然の如くグロリアクバーナの極上を走っている。喫煙中はモンテクリストとボリバーの極上物の姿も浮かぶ。旅行代としては安すぎるが、芋と違ってあまり日常向きでない。芋なら毎日食べたくなるのだが、しかし指が火傷するだけの価値はある。
|cigarOne|121.60/20CHF+¥120≒¥790/1|2020/2/16・arr 2/23|
|MSU AGO 19|3.5’ x 50|重量:8.41g|香:4.4~4.5 ave4.5|残6|

 D6では過去最高のカット感、同ドロー。
 風味よく柴ついた甘味、土から鮮度高く掘り出される土臭くもほの爽やかな里芋、爽やかさを悲しくも増長する花をはこぶ風、鋭くオブラートを纏って吹き込むおろし金の辛み、温かさを増すふかし芋、桜色の藤の花の温気、春鍋の胡椒、柚状の柑橘の酸味なき皮の趣、夏を飛び越えた金木犀、巻きが良ければかくも様々な風物がよぎるものかと感嘆する。巻きが良いだけでこうなるのか、D6然とした、凄まじい安定がある。あらゆるD6の思わせぶりな趣がただ此処に結実している。
 すき焼きの麩に小さな花びらを散らす、麩は淡白で、まだ砂糖醤油をあまり含まず、持ち味として軽い。花が軽さの美を高める、麩は人をけっして藁を食う馬とはしない。花がどんどん舞い上がるほどに土を隠すものの、艶やかさの下支えは屹と安定している。それも、土が木と化するほどの量の花だ。どうしてか、胡椒はダビドフクラシックの終盤に似た出方をしている、より強烈な花胡椒。強烈にして軽妙、含み香に何が有るのかわからないが、そもそも何も無いのか、既述のほかに。既述も十分怪しみに足り、「卵」を「苺」に寄せていく化学調味料の配合実験のごとき記述しかなし得ないもどかしさこそD6なのだ。いわばD6を記述できないのだが、これがD6でないとすれば、さらに驚きである。
 苺としては全く不甲斐ない、大抵甘味の足りないばかりの苺に似てはいる。しかしこの苺の甘味はそれで十分よい。時折ふっと苺の蔕がよぎり、それがたった一度であるのもよい。苺に嵌られた胡麻は無い、それではや最後、ナッツの渋皮にして旨味あふれる風味が大展開される。苺を林檎と言ってもよい。思いたければ、多量の果実をも含み、しかしナッツを掻き分けて現れたるは、所詮、最高級の芋という事である。芋こそ誉にふさわしい。ごつごつした芋の品評会のテーブルに、誰が生産者か、芋とは風態の異なる葉巻が一本置いてある。挙句、こんな風態めが農林水産大臣賞を受賞したという、2020年の芋品評会の伝説である。なんでも、一口含むだに、米とは思えぬことで有名なあの大吟醸酒も顔負けの、芋と思える花香果実香が評者の顔を覆って小一時間は離れなかったという。
 残りの6本はどんなに環境良く育ててもここまでの物にはならないと思え。終盤まであっという間の短章の甘美。根元、なんとも芋に金木犀が甘やか。某巨の胡椒を忘れるな。重厚にして極端に軽く、指が焦げるだけの価値がある。
 これは巻の良さだけによるものなのか? また、短いから、悪い所を見せずに終るのだろうか。ほとんど、シガリロ時代の昵懇の風味もに加え、プレミアムシガーで初当りを引いた時の感激をも再燃し、さらにこの箱に積った鬱憤を晴らすが如き高みをも低く低くじっくりと飛翔している。鷹匠が繰り出す鷹の低空飛行のように完全に制御された、羽のはえた小虎。風に煽られる様子が一切なく終る。
|thecigar|18.00CHF|2020/3/17・arr 3/25|
|—|5.63’ x 46|重量:12.59g |香:3.5~3.9 ave 3.7|残0|

 昨日のアネハドスに特有らしき異様感とは打って変って素直なパルタガス感。しかし似た穀物のコクウマ感がある。いいとこ取りらしい。直火であぶった豆乳のような、液体をどう炙るのか、そんな不思議な行為を宇宙的に妄想している間に草萌えに至る。
 萌がだんだん昨日のショックで焼いたビニールを帯びた幽霊となって出てきそうだが、確かにそう出た気も続くのだが、確かに幽霊と同じで存在しなかったようでもある。
 素直なパルタガス感が続き、より荒く強靭な方へ熟成していながら、熟成の穏やかさもあるという、他のパルタガスに比べて少々アンビバレンツな感覚が走るものの、やはり素直。
 終盤は幽霊と金木犀が共演する。金木犀ははっきりと終盤にしか出てこず、その終盤にはパルタガスの終盤に特徴的なマッシヴ感もしっかり伴う。終盤がくっきり前半と分かれて終盤らしくある。変化鮮やか理想的で良く出来ているのだが、特別な蠱惑は見えず、代りに少々怖かった。
 アネハドス、面白さならオヨーの勝ち、安堵を求めるならパルタガスの勝ち、一瞬の光輝を求めるなら、オヨーの序盤が純然たる異風景で良いかもしれないが、パルタガスの終盤の始まりも甲乙つけがたい。

 モンテクリスト版BHKが既に十分出回って、もうじきロメオ・イ・フリエタ版BHKが少々出回って、次にパルタガス版BHKとなるのだろう、か。高級なパルタガスがどんな味わいになるのか、コイーバを含め前三者より想像がつきにくい。まろやかな里芋や濃醇な里芋というのは美味しそうではあるが、里芋に甘さはあまり合わないし、まろやかであれば終盤の激しさは捨てられてしまうのか、云々。
 先読みは兎も角、ハバノスは今年はどうもロメオにばかり凝っている気がする。グランドチャーチルには手が届かないものの、マラヴィラが既に美味極まりなかった。加えてロメオ版BHKと来て、3種あるうちのどの箱を買うか迷う、多分2箱購入する。吸い込み難に陥りやすいトルペドタイプを除外するのが真っ当だろうか。
|thecigar|16.00CHF|2020/3/17・arr 3/25|
|—|5’ x 48|重量:11.00g |香:2.3~4.0 ave 3.3|残0|

 なんだこれ、めちゃうまい。穀物の味がうまい。めちゃくちゃ甘い白米とか、めちゃくちゃ甘い小麦パンとか、めちゃくちゃ甘い蕎麦とか、甘味不使用の系統で、穀物の名称は何かわからないでいる。白米であるとして、そこに独特の香草を一本炊き込んでいる。さらに牛乳を投入しているのかもしれない。何処かの民族の主食。
 中盤まで煙少なく味がはっきりとしないのだが、葉巻としても極めて珍かな味わいで、ミルクにしても香草にしてもかなりクセが強い。草はパクチーどころかビニールを燃やしたように毒々しく煙る。毒を牛乳みたいな乳か何かで洗い薄めてより気持ち悪いような。水の代りに変な液体を与えて育てたバジルのようだとも言える。豆や草や花の変異であることはわかる、しかし配合に失敗したチャイのようだ。変な物を入れるなと言いたくなる。煙なら失敗も失敗ではないのだろう。
 やはり「アネハドス」は独特で、『熟成のお手本』のような見方もできるけれど、自宅の物がすべてこの手の熟成を遂げるとなれば、あまり熟成させずに済ませたくもなる。ただ決してそうはならないので、アネハドス専用の葉を用いている気がしてしまう。
 序盤は奇しくもおいしく、奇天烈で面白く、中盤毒々しさあらわに、終盤は金木犀で覆っても奇を隠し切れないでいる。
 ※ドローが悪いとか、ハズレであろうとか、そういうことでなく、純粋に香味として2.5ptを下回る2.3ptとなっていることに注目してほしい。それでも上端は4.0なのである。美味しさの中に、苦手な味が息づく。

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