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  源氏物語「葉」
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|knokke|€169/10+¥7500/10=¥2750|2020/3/9・arr 4/9|
|LGR MAY 19|6.38' x 52|重量:18.00g|香:3.8~4.3 ave4.1|残9|

 桜が散り、外界では藤を待つ中途半端な季節、意外なお客さんが現れました。週にお一人ぐらいしかお見えになりませんので、お客さんは皆さん意外なんです。扉が開くと、こちらがびっくりしてしまうのです。歳は四十恰好、社会のイロぐらい知り尽くしていらっしゃるであろうお年頃でしたのに、おどおどしたところのある、おもしろさというんでしょうか、奥ゆかしさが見て取れました。出立が黒づくめでしたし、黒づくめの人は奥が深い人が多い印象です。静かという意味ではないんです。で、椅子に半尻座ったところ早速、今日届いた葉巻をもうお勧めしてしまいました。あの日、葉巻もこのバーの空気に馴れず、お客さんや僕と同じでびっくりしたような状態でしたから、ちょうど良いと思いましたね。グラン・キホーテ、ドン・キホーテですね、サンチョ・パンサです。
 彼は指で火を点けましたよ。
 手全体が普通の人より赤かったです。
 甘い胡麻麦茶のような味がする、最初はそんなことを聞こえよがしに呟かれていました。
 確かに甘かったのかもしれません、ただ、こちらには胡麻麦茶というよりも藁っぽい香が漂ってきていました。
 それから間もなくといいますか、ほとんど突然さっそくだったのですが、彼の髪が緑色に変わり始めたんです。一瞬目を引かれてしまいましたが、お客さんはそれについてはびっくりなさいませんでしたね。そのあと、なるほど藁ではなかったようで、胡麻を焦がしたような匂いが店中に行き渡ってきました。ものすごく甘い匂いです。恥ずかしながらちょっとお客さんに尻を向け、合いそうな日本酒を用意して振り向くと、既に緑色の髪にでっかいカスタード色のしっとりとろけそうなケーキが刺さっていたんです。もうケーキが液状化を始めて滴ってもいたようです。草原の色形をした髪のハリガネがケーキを持ち上げています。昔のバンドマンの髪型みたいですが、遅ればせながら神を見たような気も後からしましたよ。お客さんはおどおどしながら平然と吹かしていましたね。肩肘ついたりして、聳り立つ髪の角度が変わると、ケーキが落ちそうになる、でもしっかり刺さったままでした。ずいぶん胡麻を多く使用しているんですね、ケーキ。黒づくめの服が胡麻臭い、と僕も迷うところがあったんです。勿論ケーキの上にはデコレーションが華やかに発生しています。ケーキって、上に重ねていくものでしょう? 花が前でなく天井を向いているのもおかしいですけれど、ケーキってそういうものですよね。オレンジクリーム色、レモンクリーム色、若草クリーム色、砂糖で象ったデコレーションらしいのですけれど、頭から上に生えていましたし、ええ天井は鏡張です、砂糖とも蜜とも思えない花の香りがバーに充満してしまいました。緑色の髪の毛もどんどん上に伸びていきます。一方、髪の付根のほうはどんどん黒胡麻色になっていきます。その時、彼の顔がおどおどとしながらほっこり和んでいたのが不気味でした。サンパンの灰も長々伸びていて、この灰と一緒に髪の毛がずるりと滑り落ちるのではないか、お客さんは急に鬘を剥して店の床を汚すのではないかなという懸念が兆しました。何か、灰の伸びと髪の伸びが物理的に繋がっていると、ふとそんな気がしたのです。まあこのお客さんは毎日床屋に行かなきゃなりませんでした。
 なんででしょう、顎の下が外れてきたんです。それでいて、それに伴って表情がアホみたいに引き締まりました、外れた顎に構わず引き締まったのです。あの時、僕が胡瓜を切ったからでしたでしょうか。僕もこれ嫌いなんですが、たまに切りたくはなるんです、胡瓜。食感はあまり知りませんけれど、包丁の歯は喜びますから。包丁が喜ぶと、腕も振動で喜ぶんです。かなり臭いけどね。これでお客さんの髪型が甘くスイカ模様になっているんですね、縦に黒と緑です。顔は自分で自分が嫌になっているという表情でした。スイカは甘いけれど、所詮きゅうりの仲間ですから、たぶんそうだったのだと思います。でも、赤い果肉のスイカだとてっきり思い込んでいましたが、黄色いクリーミーなスイカの果肉が顔に現れていましたのは、救いだったと思います。たぶん新種のスイカでしょうね、アボカドスイカみたいなものですよね。甘いスイーツアボカド。
 ワインを棚から取って振り返ると、お客さんの頭が禿げていました。それでもすぐ同じ髪の毛が生えてくる。こういう人は幸せだと思います。一週間に一人しかお客さんが来ませんから、よくわからないのですが、外界の皆さんはこういうものなのかもしれませんでしょう。僕には今日のお客さんは結構珍しかったです。このお客さん、足首が細かったみたいですけれど、それを病んで足首を太く切ったりはなさいませんでしたね。足首が細い人って、無駄に足首を太く切っちゃいますから。本当に珍しいお人でした。
 藤も見たことがないですね、噂には聞いております。いや、お客さんに藤盆栽を見せられたことがありましたっけ。
 そうそう、藤盆栽ではないですが、昔、そっくり似た体型の人がいましたっけ。
 昔はやめましょう。この日のお客さん、金木犀とお汁粉が置き土産でした。皆さんバーで死んでしまうんです。お汁粉は即席でしたし、期限切れでしたので、もうあまり甘くはありませんでした。細い足首を残して、床に草も散っていました。けっこう紆余曲折があったとは思うんですよね、でも生まれは拭えないと言いますか、ずっとシンプルなお人柄だったかと思います、飾られてかえってシンプルさが際立っていました。華やかさとか、辛さとか、そういうものではないんですね、人って。辛いお顔はあまり見えませんでしたけれど。
 勿論、タバコ税や送料も加算してお財布から勝手に頂戴しました。ルールですので。
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