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  源氏物語「葉」
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|thecigar|53.00CHF/10|2021/12/12・arr 12/30|
|ASU OCT 19|4” × 40|重量:5.28g|香:2.5~4.1 ave2.8|残5|

 パリィナのゴールディかと疑うほどの純粋な香水に始まり、一気に強くハバナらしくなる。さすがモンテと思うと同時に、ゴールディもゴールディの独壇場ではなかったか、と理解する。ほんの一口目だけの出来事。
 二口目にハバナ化して後は振るわなかった。
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|thecigar|53.00CHF/10|2021/12/12・arr 12/30|
|ASU OCT 19|4” × 40|重量:6.58g|香:4.1~4.5 ave4.3|残8|

 年末に届いたこの箱の2本目、モンテクリストNo.5の限界ではないかという物に当った。
 アーモンドやカシューナッツの美味しい類を薄皮を加えつつも摺鉢で延々と練ったようで、野趣ある香ばしさに加え、どこかねっとり澄んだ白っぽい旨味が一貫した。白粉は少なかった。その茶澄む重厚な香味の中心で不思議な事が一度起った。始めから終わりまで極端に美味しい個体ではあった。
 いつもはモンテクリスト特有のブルーの空、空を浮くエメラルドの湖、ひろがる空気であるはずの幻想が、ほんのひと房きりではあったが、ついに青い空が実体化し、青い果を実らせて口に落ちた、たしかに。口蓋で容易に潰れてこの世のものならぬ美味しい汁を含ませ、儚く消えた。青くて少しミルク質の果肉だった。ただ、ひとふさのひとつぶのみ、ひとつぶも小さく。なんたる僥倖だろう。
|thecigar|53.00CHF/10|2021/12/12・arr 12/30|
|ASU OCT 19|4” × 40|重量:--g|香:3.8~3.9 ave3.8|残9|

大晦日に着火。
モンテ特有の「キャラメルナッツ」のそそる香ばしさから、同様モンテ特有に「白粉化」していく。黒ずむ灰、「コンパクト粗野」にして雑味なく重厚な響き。爆発こそしなかったものの欠点もなし。これだけ状態が良ければリネアラインよりも美味しい。だいたい1本目は美味しく感じるものだけれど……
|cigarOne|¥14627/7=¥2090|2018/11/20|
|LGR NOV 17|6.1" x 52|重量:14.67g|香:4.0~4.5 ave4.3|残0|



 白粉顔なる人でした。この戦隊の方々は入店早々着火する慣わしのようです。茶色い人が茶色い葉巻を手に取ります。今日は他の戦隊員にはなかったわらしべのような懐かしいような香りが漂い、米ほどの旨味と甘み。初めから群を抜いて香り高いマントの人でした。茶色は赤色で競う者たちとは別の次元へ行っている、と昨日のレモン赤十字さんに教えられました。センターの金色の人の技に近い技の持ち主なのだとか、要するに二番目に偉いらしいのです。ああ、ふつうセンターは赤ですが、赤を四人で競いつつ、でもビショップマンの本物のセンターは金色らしいですよ。茶色のビショップマンも赤より偉いらしいです。
 全然違います。ビショップマンとしての共通項も見出せません。黒い味、炭のように無臭化する、イカ墨の味がする、その上にきめ細かな白粉化粧が満遍なくふりかかっている。ほとんど白に見えますが、黒です。いきなり凄みを感じます。こうまで風格が違うものでしょうか。なんだか憧れのお方という感じで、僕は乙女のように固まってしまいました。それがどうでしょう。いきなりポロリしたのです。靴が脱げちゃって、同時に葉巻の灰も灰皿の外に落とされました。我が乙女心の緊張を察せられ、愛嬌を見せられたのかもしれません。
 ポロリと和らげられた雰囲気の中、当店自慢のカスタードタルトを口一杯に頬張って、「卵の黄身が濃いようなカスタードだね」と。おお、中に仕込んだ金木犀ジュレにもお気づきです。タルトは焼色を濃く、菓子だけに樫の木を焼いたような香ばしさ。バタも使っていますが、軽くミントの葉で爽やかさを気どります。へへん。
 こういう楽しい時、時間が早く過ぎてしまいます。いつの間にか遅くまで居残ってくれる、ということではなくて、帰るまでの小1時間か大1時間が早すぎるのです。ビショップの茶色のモンテさんは朽ち果てます、靴だけではありませんでした。下から、脛、腿ももう消えていました。もう臀部もです。夢で闘う戦隊は、夢を見ぬ人にも夢を見せるのでしょうか?
 盛んな金木犀と一緒に菊花が香ります。残り香は金木犀を残して菊を消し、白粉を漂わせます。何より、先日の御二方とは花の量が圧倒的に違います。金木犀、周囲1キロどころか、僕が花の元にいるような。
 大吟醸酒をお出ししましたら、パイナップルの吐息が金木犀に絡まります。にこっと、最後の笑み? まだ肩までは消えていません。ですが僕はもう少し悲しくなっております。時計を見ると、3時26分だったのを鮮明に憶えています。もう首が消えかかって、菊が強まる気が致しました。
 振り絞るのか、モンテさんは相変わらず穏やかな花顔でした。うちに秘めた強さをも感じさせず、それこそ穏やかな。
 白粉のお顔の下地のイカ墨が現れてきます。それでも金木犀の。
 夢を見せる間に退店なさったのでしょう、靴も消えていましたから。
 葉巻が灰皿に3センチほどの尻尾として燃え残っていました。それは依然イカ墨と金木犀に見えました。
|gestocigars|(331.50CHF+ship36CHF)/20≒¥2000|2019/12/17・arr 12/27|
|UTL ABR 18|130mm x 49|13.52g|香:-- ave--|残16|

 今日はデュマスさんがお見えになりました。昔は騎士だったそうなのですけれど、相変わらず深々と甘やかな雰囲気で、ぴったり珈琲をご注文なさいました。恰好はそう小さくはないはずなのですが、コンパクトと申しましょうか、より大きい方が凝縮されたお人のように見えるんです、不思議です。普段は草ばっかりお召しになるそうなのですが、どうして、ブランデーの古酒のような肌艶なんです。お口から吐き出される煙からも、草の香を漂わせらるるのですが、これもやっぱり深々と甘やかで、全てにおいてキャラメルソースを一滴垂らすような、気前の良すぎる感じがありました。香水をお飲みになったのか知りませんけれど、吐息の底の方から花がじんわりと、そう、ちょうど地を這うドライアイスの粒々が風の拍子で舞い上がるかのように花が立ち昇ったり。凡人と違って、花が上からは来ないのですよね。完全に花が人体に染みているのだと思いますよ。濃くて、重みがあるんですね、花にも。かといって重すぎず、蜜を塗ったままでも浮くというんでしょうか。ふと僕が埋まってしまって花ともども蜜どもども分解されて土に還っていく感じがしましたよ。地中に埋ずもれて、地上にはキャラメル色をした霧がうっすら、だったと思うんです。騎士が見せる幻だったと思います。デュマスさん、どんな記憶を宿していらっしゃるのでしょう。そら無口ですよ。声をお聞きしたことがありません。
|thecigar|10.50CHF|2020/3/17・arr 3/25|
|—|5.59’ x 42|重量:9.68g |香:3.4~3.7 ave 3.6|残0|

 1番と3番と4番は同じリンゲージで、長いのがよければ1番、短いのなら4番で、中間の3番は特に使い道もなく、多分どれも似たような味だと思うのだが、つくづく見ているとなんともちょうど良いサイズに見えてくる。夜には心許ないが、昼間なら。
 オレンジ色のような、エメラルド色のような、二層に色づいた華やかなキャラメルの味で、そのぶんキャラメル味は少し薄め。
 大昔を知らないものの、懐かしく古典的な感じもして、ここに見える最たる魅惑の要素を取り出し煮詰め、かえって古びず新らしく鮮明化すると現在のリネアシリーズのような味になる。オレンジ、エメラルド、茶色、これらがはるかに濃くビビッドになる。しかしナンバーシリーズ、これにはこれ独特の、どことなく古びた魅力がある。茶色にして白色をも感じさせるのは全て同様で、モンテクリストはパルタガスやコイーバほど重心が低くならない。低さと高さが同居している。高さは、多分ハバナで一番高い。低さもあるがゆえ、高くも感じるのか。
|gestocigars|(331.50CHF+ship36CHF)/20≒¥2000|2019/12/17・arr 12/27|
|UTL ABR 18|130mm x 49|14.66g|香:3.0~4.1 ave3.7|残17|

 パルタガスショックの後でも活躍できる物となるとなかなか選択肢が少ない、しかもなるべく小物でとなれば。デュマスをこんな理由でどんどん失ってゆき、後生大事になるのは十本を切った辺りからだと思う。まだ十七本残るので気楽な段階である。この葉巻はもっと眠らせなければならないことはわかり切っているのに。シングル買いした人は弊ブログがGOサインを出すまで着火してはいけない(本当です)。

 D6と比べて序盤が荒い(この二つを比べるのもおかしいが)。(次はパルタガスでBHK系の物が3種出るという希望的観測を持っている)(モンテよりもパルタガスが好き、ということはない)(コイーバが一番美味しいが、コイーバは連日タイプでもない)(BHK系のパルタガスが出たら、連日系としてあっという間になくなってしまうかもしれない)(ロメオも危険である、ロメオもなかなか連日系である)(コイーバとパルタガスは重厚系、モンテクリストは中間、ロメオは妖し系である)(レイエンダがあるのでデュマスは十本を切ってもどんどん無くしてしまうかもしれない)(それにしてもこのデュマス、ブラインドでも明らかにモンテとわかる素性の確かさ)(美味しそうにキャラメル色が広がるパレットに青緑を濃く細くぐるりと引いて渦巻かせたような。)(でも誰もモンテクリストを青緑だなんて言っていない)(わからんのか、青緑が)(ラムネ菓子感はパンチにも通じるが、ラムネの梱包フィルムがやはりモンテは青緑、パンチは無色か黄色)(粉っぽい旨味に関しては、ラムネであり、土っぽくないということ)(それとは別に土っぽさがあるモンテ)(パルタガスほど土臭くなく、よくよく嗅ぐと木もある)(木にありがちな軽さやえぐみや酸味がほぼない)(濃密さも樹皮感とは違う。)(常に花が咲いている様子もある。気づかれない花。)(それでいて金木犀が咲くとモンテの金木犀こそが一番金木犀に近い。本物と区別がつかない。)(ドローは若干悪いな)(すでにかなり美味しくなっていたけれど、「「「3センチほど進むと濃醇とろりとしてたまらない」」」)(キャラメルに花やら何やら溶かし込んでいる)(三ツ星フレンチのデザートとはこういう物なのかな)(最初に供されるサラダの花と、最後に供されるデザートのキャラメルが融合している。)(緑のサラダ感はほとんど皆無だけれど)(甘さは控えめなのに、十分に感じるのはどうしてだろう)(これがデザートではないからか、では何なのだ)(食後の珈琲感もない)(妖しい)(妖しすぎるぞ、何だこれ)幽霊か。(落ちをつけるつもりなんてないんだ)(でも濡女がひたひたと来る感じはある)ねえ、幽霊を好きになっていいの?(モンテクリストを好きになれない人は、幽霊が嫌いなんだ、そうだろう)(成る程、合点がゆく点が多々ある)(オレも幽霊が好きだが、何となくモンテにゾッコンとまではいかない。でも海に引き摺り込まれるということはある)ちょっと出かけてくるね。(うちの人が帰ってこないんです)(そら帰ってこないでしょうよ)(明日の朝まで様子を見ればいいんですね、あいわかりました)(セメダインに砂糖を混ぜた甘さ)(果実のない、砂糖のあるエステル)(夜中に真夜中となりました、真ん中とは何でしょうか)(警察って何にも知らないのね)(昨夜の土左衛門の話をいつ切り出すべきか)(昨夜ではない、今夜だ)(行方不明届が早すぎるぞ)
(旦那さん、帰ってるじゃないか。仏壇の写真に)(いったい誰が行方知れずになった?)(落ちなんてないんです、空から行方不明に)(空から消えただって?)ただいま。(なんだきみは)(ほら、やっぱり来たんです。)(別に来て困る人でもなさそうだぞ)(いつもよりソース顔ね)(でもフレンチソースかしら、いいえキューバンソースかしら)(人を焼いた煙なんて、オチないんだわ、昇るばかりで)(ああ、なんて香りが甘くて深いのかしら、青緑の湖みたい)(ご主人が蒸発されたのですね、ご主人が)(あたしが青緑の湖に沈んで空を映してる)(もっと空を引き摺り込みたい、空っぽの空が地を映すぐらいに)(湖が蒸発したら、空に入り切るかしら?)(でもこの湖って、小さいのよ)(あたし恨むわ)(底が乾くほど恨むわ)(底に辿り着きたい、乾いてでも)(そしたらあたしいなくなるのね)(もう君はいないよ)(とっくに)
|gestocigars|(331.50CHF+ship36CHF)/20≒¥2000|2019/12/17・arr 12/27|
|UTL ABR 18|130mm x 49|12.55g|香:3.4~3.9 ave3.7|残19|

 出会い頭の草は黒ビールに感じる草(ホップ)の感覚に近い。黒さからは想像し難いところの意表をつく。それでも練り込まれた黒焦げの味わいが見たまま現れるのと同じで、モルトの焦げをキャラメルに置き換えつつ、舌ざわり土っぽいコクが現れる。
 「普通のモンテクリスト」ではないかと訝っていると、強さがすぐに来る。強さは荒れ、味わいを伴わないため、味の濃度は変らずも対照として薄くなる。
 以前2本試し買いして、デュマスとマルテスが荒く、レイエンダが落ち着いていたのでレイエンダのみ箱買いしたのだが、結局こうしてデュマスも箱買いしてしまったのである。案の定というか、荒さがある。試験は成功していたわけである。周りの評判が結構美味しそうなので私の方こそ試験に失敗したかと思って、周りを信じたばかりに、私の試験を責めたばかりに、また荒さを喰らった……というほど今日の一本は荒くない。
 試験時ほど荒くなく、ちゃんとモンテクリストの味もある。前はモンテクリストの味もあまり感じられなかった。ただし現在これを「凄いモンテクリスト」とは言えない。
 しかし、金木犀が匂った途端、「超絶美味」の片鱗×3のようなものが現れる。不思議、不思議でもなんでもないのかもしれない、まるで舌が馬鹿になったかのようにその途端の一口、たったの一口が美事に化ける。「変化」は今まで「一口目と二口目の香味が違う」という意味だった、これまで全てそうだった。今日は一口の内で化けた。煙を含み、ほろりと転がし、そうする最中にも徐々に口の外に煙が漏れる、そうこうする20秒程度の間に、阿修羅のようなすっかり違った三つの顔を見せられ、「超絶美味」と言ってしまう。一口で三口分は変化した。それも連続の三口というより、およそ十口ぶんの距離感のある。
 初めカスタードの居ない金木犀だったのが、煙を吐き終る頃にはたっぷりカスタード入りの金木犀に挿げ変っていた。というと大して凄くなさそうなのだが、この一口の間だけ何故か荒さがすっかりなりを潜めて、分厚い雲間に北極星のみが見えたような、葉巻の地軸に天国を見た思いがしたのである。天国を軸に荒さが回っていた。物凄く静かな美味しさだった。
 一口は長続きしないものの、北極星に薄雲が掛かるくらいで持続し、雲が厚くよぎればまた薄雲まで回復する。夜の雲を眺め続けている気分にさせられる。鮮明な一点の星のみを見つめつつ、その周囲に幽かに気を散らす。光は目に儚く映るも巨大で、葉巻という地球の産物にして太陽を無視するかの如くである。しかし北極星は「たまたま地軸の先にあっただけ」でありながら、「たまたま彼処にあっただけ」という物体の偶然性の鏡となれば、いわば人類の手垢を塗られた偶然であることをやめず、その一点は反射し翻って目の回るような太陽の瀟洒さへ落ち着くのである。
という感じの味がします。薄らまざまざとしてこの金木犀は瀟洒です。

お供:『ノースコースト オールド・ラスプーチン ロシアンインペリアルスタウト』(要するにアメリカの9度の黒ビール)

以上が前半です。
以下後半。

 前半で終われば良い気持ちなのかもしれないが、気持ちを切り替えて、夜空を見上げないようにしたい。夜空を見上げる奴は馬鹿だ。

 だが、たいして付け足す事もない。そもそもこの葉巻は吸い込みが悪いのである。だから星が一つ見えたりするのである。一般的なモンテクリストの味で、それが濃醇化されてはいる。徐々に強さ荒さを制するほど味が濃くなっている。しかし煙道が細い。焦げの香ばしい風味が爆発しそうにもなる、それでも空気五分入りの風船である。パン、キャラメル、土、……今まで使ったことのない名詞はとくに出てこない。探せば見出せるのかもしれないが、そういう物を探す趣味もない。いつもより美味しいモンテクリストだった。にもかかわらず不発感が残る。爆発したとしても、目新しい言葉は出てこず、幻想の内容と感動の度合いが変るのみだと思う。要するに素晴らしいモンテ味で、モンテ嫌いな人は吸うべからずと言いたくなるところ、モンテ嫌いかどうかの最終判断として喫することをおすすめできる。モンテの粋を完備しているので、あんたがモンテだと思っていたものが此処には無かったり、あんたがモンテ以外のものだと思っていたものが此処に在ったりもするかもしれない。
 最後、味わいが薄荷様に白け、モンテらしい青緑(今日は此処まで忘れていた)を見出せる。夜明けの蒼天のような。明けるとかえって土色が見え難くなるのが葉巻の風情かな。土を想像のみの産物として。そう、地球には土なんか一粒も無い。土は夜の夢。
 地球が嫌いな人はひとまず葉巻を燻らせよう……夢みがちに嫌いな人は……地球を夢として好きになれるかも……すべては言葉でできている……言葉は夢しか見ない……
|gestocigars|(467CHF+ship36CHF+tax¥13600)/20≒¥3500|2019/3/18・arr 3/25|
|UER NOV 18|165mm x 55|19.35g(-0.31g)|香:4.2~4.5 ave4.4|残17|

 レイエンダは2本買った後に20本買ったから、これで22本中4本目。当箱の3本目。残18本。

 今日は金木犀が香ったので、木の方へ誘われて蕾を見た。例年以上に盛んだった蝉は前台風の後にすっかり消滅したものの、鈴虫は昨日の台風一過直後に鳴き始め、金木犀も鈴虫に倣ってほころびそうだった。
 金木犀ということでモンテクリストの上品を取り出す。

 リネア1935にして19.35g。これこそがレイエンダの最良の一本であると思わない人がいるだろうか。19.34のものと19.35のものがあって、どちらかを選べと言われて19.34を選ぶ人だけが「だからどうした」と言いうる。だからどうした。
 外貌はやや酸っぱい匂い。空吸いすると味噌漬けの藁のようで、味の濃さが伝わってくる。
 むっしりした吸い込み。これより少しでも詰まると固いと言いたくなるぎりぎりのラインで、葉巻をつまむと弾力あり、その指の感覚がドローにも通じているようである。
 着火すると味はすぐに濃く甘く整う。モンテ風味のコイーバというような重厚さ。それも調子が良い時のコイーバ。茶色い葉の味わいの厚みが桁違いである。あくまでもモンテクリスト風味が厚い。その中で、夜明けのように、これもやはりモンテらしく白みがかってくるものがある。
 しかし白みに襲いかかる黒みがある。夜に引き戻そうとする時間の重力がある。ものすごい煤煙の旨味、文字通り焦げたように香ばしくも澄んだ炭の味わいがし、なんなのかよく考えていると炭を擂鉢で三年間も回し続けたものらしい。それが乳化なのか幽かに油のようなねっとりした質感が出る。
 むっしりとして煙の量も豊富である。
 悠揚迫らぬ調子でココナッツが顔を出す。鮮明な変化にして、かつて現れていたものは消えず静まり、新たなものが顔を出しては、また消えずに静まる。静かなものたちが薄い横顔を現しつづけ、複雑というにはあまりにもおおらかに悠然と重なり、懐の深さにまだまだ余裕があるであろう貫禄をわからしめる。懐がもしやこれ以上深くなく、すでにして極上であるもこの様に止まっては、もしやつまらないかもしれない。余裕がありすぎてつまらない、それとも余裕が嘘か、すでに極上であるのに。
 懐を信じて構わない。なんとも濃くミルキーな、純白のキャラメルの味がする。真っ白の乳製品のままであるのにどうして香ばしいキャラメルの味がするのか。
 この葉巻の序盤から主題として芽が出ていた金木犀が大人しくもほころび始める。存分に副流煙を鼻で吸い込む。それが金木犀を満開にする手法なのである。金木犀を潰すほどの茶色と黒の香ばしい旨味が持続する。色以外の下手な物に喩えるのは気が引ける。そこへ黄金に光る蜂蜜一滴。くすんだ色が美しかったのに、ひとしずくの透明感が光り、くすみが鈍色に光り始める。
 草か。この葉巻で漸く緑を見た。こんなところに緑が生えているのか。茶と黒と白と金に揉まれて緑が潜む。茶と黒と白と金と緑。モンテクリストの下級品に通じる、下級品から想像できる、延長線上の極上品にすぎない。ココナッツなど、モンテクリストの中級品の持味をも極上に昇華している。これも延長線上に過ぎない。だからこそ素晴らしいのか。でもどことなく想像を絶しているところもある。夢が現実化した際の現実はあっけなく、その現実の方が夢より強いということはないはずだが、ここには夢のような現実がある。もともと現実化しやすい夢を見ていたのであるから。そろそろ終盤である。雑味が萌した。
 雑味を旨味に転化するかのように、炭鉱のカナリアのごときココナッツが見事鈍色の光を発してくれる。甘さはとくにたるくなく、最序盤が一番甘く、一瞬蜂蜜の一滴に結実したとしても、序盤のあとは薄っすら透明に隠し味のように広がっている。ココナッツ本来の甘さも、味より香りがとくに甘い。金木犀とキャラメルを混ぜた甘やかな香ばしさの重厚さがとりわけ太々しく持続している。副流煙を鼻で全て吸い込みたいぐらいの、もう一歩で羽が生えるぐらいの刺激的な陶酔感である。飛ぶために重さを掻き集めているようである。
 終盤の荒さも静かで。
 これだけ巨大で美味となればもう身がもたない。身の逼迫が葉巻の香味に反映されてしまう。巨大さ徒然で酔いも回ってきたし、もう駄目だが、葉巻は衰えないようである。下戸は優しい酒を選ぶべしで、葉巻が美味しすぎ酒の味がほとんど関係ないほど煙が濃い。糖度の低い蒸留酒よりも醸造酒の方が適確ではありそうである。ラム(トロワリビエール2000、上品、お気に入り、マスクメロンのエステル)も試したが、山田錦の大吟醸酒のパイナップル香のほうが喉を潤し甘さを補い別途の香りを加えて麗しく逞しい。

 レゼルバや特別なヒュミドールに入ったモンテクリストなどはひとつも試したことがないが、重厚なモンテクリストは此処にある。なかなか19.35gのものには出会えないかもしれないものの、4本中1本は極上で、1本は優品、2本はやや外れといったことに均せるのかもしれない。経験上のみで葉巻界を俯瞰してみると、4本14000円程度なら、これはかなりお勧めできる。ただ、「悠揚迫らぬ」というところが評価を分けるポイントかもしれない。現に、コンパクトで卑小なコイーバエスキシトスに点数上、一歩及んでいないのである()。それにしても、なんと美味しげな分水嶺だろう。モンブラン(リネア1935)とマッターホルン(エスキシトス)のコラージュのようである。あっちのみーずはかー……
 ※コイーバエスキシトスは初日の一本以降、てんで駄目なので、信頼性ではレイエンダが断然上です。

 マルテスとデュマスには要熟成の感覚があったものの、レイエンダは若くして一時完成されている。
|cigarOne|$122/10|arr 2017/12/2|
|EOT DIC 16|6.1 x 50|17.71g|香:2.0~2.8 ave2.3|残0|

 南に窓の空く部屋にては、夏は煙が篭る(冬は自然と煙が抜けてゆく)。冷房器具を停止し、扇風機をベランダへ向けて回転させ、着火する。

 夏が葉巻に悪さをするのか、お盆前後、八月中旬を通して、どうも不味い葉巻ばかりで、これは三歳未満の葉巻であるにもかかわらず二十年選手のように枯れている。若いので、枯淡の境地というのは憚られるが、不味いわけではなく、ひたすら枯淡だった。
 最後の一本なので、ひととき箱の中で寂しく過ごした葉巻ではあるが、残一本たちが集う箱に移住させたから、そう寂しい期間は長くはなかったはずである。葉巻は寂しいと枯淡が早まる、という現象がもしやあるにせよ。
 酷暑に原因を求める他なかった。(重量オーバーで鼻詰りを疑わせるほどのドロー難でもあったが)
 『MONTECRISTO sublimes EL 2008』は真夏に美味しかった記憶がある。ELがなべて水の気配を纏うからだろうか。水風呂のような。

 ダビドフ7のみは別格にして暑さに負けなかったものの、概して今年の夏はショートフィラーの葉巻の方が活躍した。(旅行先にて地ビールと併せて活躍)
 ※昔訪れた城崎温泉街は別格(?)として、最近の旅館は地ビールを取り揃える処が多く、今回、禁煙旅館の暖簾の前にて、とりわけIPA麦酒と葛コイーバの組合せを絶妙に感じました。

 なお、ダブルエドムンドの前に着火したレイエンダもまるで奮わなかった。

 一つ発見したのは、モンテクリストのバンドが樺細工に染み込むということであった。

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