忍者ブログ

  源氏物語「葉」
++葉巻++シガー++レビュー++個人輸入++ブログ

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

|cigarOne|¥14627/7=¥2090|2018/11/20|
|LGR NOV 17|6.1" x 52|重量:14.66g|香:3.0~4.0 ave3.6|残0|

 昨日お越しになったアップマンに似ているといいますか、同じヒーローの一味と思われ、同じビショップ型のマントを着た人が入店しました。今日の人は饒舌で、ヒーローのセンターといえば赤ですけれど、赤がご自分を含め4人もでしゃばっていて(「昨日も赤が来ただろ?」)、本来のセンターは金色になってしまったそうで、他に茶色を合わせて合計6人の戦隊を組んでいるらしいです。金色の人はマントも金色なのだとか。お写真を拝借しました。



 金色の人は本当にマントも金色みたいで、でもどれも同じくハバナ葉で誂えたマントだそうです。これから続々と日毎お一人ずつ現れるかと思うと大変楽しみですね。今のところお二人とも面白かったですから。戦隊はアップマンではなくやはりビショップマンと言うそうです。なぜ6日連続でこの店を訪れようとしているかは最初の謎なのです。
 やはりご自分とよく似た葉巻をセレクトされました。
 マントカラーの違いそのまま、醤油を使用していないような風味がするそうです。透視いらずで饒舌に教えてくださいます。が、お話を伺っていると、同じ戦隊モノだからでしょうか、黄粉の旨味がどうも昨日のものとよく似ているように思いました。塩を入れ忘れたような味気なさも全くなくて、きな粉には砂糖が入っていてこれがなんとも美味しい、絶妙な塩梅である、と言います。砂の中から砂鉄を磁石で取り出すような甘い喜び。
 岩感など昨日のあいつより少なく、ハバナハバナしていない。わたくしもハバナなのだからなんといえば良いのか頭がおかしくなって来ました、と言いました。「優しい赤十字」と言ってしまえば済むのだが、そんな私的言語は通じませんな、それに、もう少し強い感じがわたくしにもわたくしの葉巻にもある。
 でですね、この人の特技は結局レモンだったのです。レモンばかり注文なさいましたし。
 煙の匂いも薄らレモンぽい。お正月と言うことで、『自家焙煎:麝香猫の芬の珈琲』をお出ししまして、お供は炭酸飲料ではなかったのですが、レモンの強炭酸がしばらく温泉のように吹き出る、ハハハと言います。この人、笑うというより、ハハハと喋るのですね。火山の荒さ、岩のコクも出てくるぞよ。草の生えた火山。次に大変マイルドなカスタードレモンクリームの溶岩がほどよく冷めて流れて来て、この酸味高いレモンクリームを中央に残して斜面の景色が変わる。変わろうとして変わらない。ビショップマンは今夜は変身しません。変身と言っても、だいたい夢の中でなんらかの怪物に出くわす、夢の中で闘う戦隊だそうです。敵は自分かもしれないなどと初歩的な哲学なんかを語っていました。
 お客さん、レモンの入れ過ぎではないでしょうか、今度は僕が言いました。クリームが蒸発してここ暫く隠れていた砂糖を再現する気配がある、と次にビショップマンが言いました。
 砂糖と薄茶色のハバナ葉の味わい、ロメオの純良品のようになる。ロメオとは誰ですか? 最終日に訪れるよ。最終日は金色ではなく?
 またレモンのご注文か。酸っぱい顔をして、そんなにレモンがお好きなのですか? 僕だってレモンは好きですけれど、レモンには限度というものがあります、コーラにレモンを添えるぐらいで十分、ケーキならわりとたっぷりレモンを染ませたい、ケーキは甘いですからね。この人は砂糖の量に対してレモンを入れ過ぎでしたね。しかし不思議なことに差したレモンを引いたりもしたんですよ。どうやって液化したレモンを取り除いているのか、二つ目の謎なのです。れもね、レモンの在庫が切れまして、レモンを失ったらすっかり生気を失ったようになってしまいましてね、最後の3分の1はもうしょんぼり、ただ口から機械式に煙を出しているだけになってらっしゃいました。
PR
|cigarOne|¥14627/7=¥2090|2018/11/20|
|LGR NOV 17|6.1" x 52|重量:13.04g|香:4.0~4.3 ave4.1|残0|

 明けましておめでとうございます。



 さっそくとなりますが、まだ正月二日だったというのに、マントをつけた今日のお客さん、入店するやいなや挨拶顔も無しに着火されました。セレクション・ピラミデスのアップマンでした。酸味はアップマンにしては少ないようで、コク深い顔に始まりおひとりで頷いていましたっけ。葉巻も顔も結構日焼けしたように浅黒かったです。
 粗野な黄粉、醤油ジャム、草、上空に抜けて花。
 マントをつけている人の頭の中は単純ですので透視も簡単でしたね。空にも花の匂いがあると言います。この人、葉巻と体つきがそっくりで、手強そうな強さがあるが、筋肉のバランスが取れ、というか単純に芳しくて美味しいみたいで、のっけから高そうな品質を誇示して偉そうでした。空を飛ぶためのマントにも同じ匂いが染みていましたよ。アップマン、すべての立居振舞が一皮剥けているというか、顔は浅黒いのですが、洗練されながらも粗野といおうか、いやいや、荒野の民の近未来型の正装で、「洗練された粗野」というほうが当たっています。なにしろマントはハバナ葉で出来ていましたし、アップマン(ヒーロー)が手に持った葉巻の灰の形、灰の下の首元のラッパーの袷まで、顔に見えるのです。そうです、インディオのコケシに見えます。



 そりゃ当たり前に空を飛ぶのですから、白木質の軽やかさを芯に秘めていて、しかし今は椅子に座る時、手に持つ葉巻にしても、吸い出す時には軽いが、口中でぽってりした味わいの重さや香ばしい荒さの名残が連綿とします。それも序盤の終わり頃には滑らか顔なるものになってきました。当店はいい椅子を使っていますので。
 スーパーヒーローですから、他(他人の正義の心)を映じる水めいた純粋な清冽さがありましたが、クリームの滑らかさに変わっていったのです。ヒーローがクリームでいいのですかね? クリームとは庶民じみていませんか? そりゃヒーローこそ庶民です。ヒーローだってパンにも顔にもクリームを塗ります。で、すると上空の花が口元まで降りてきたようです。花を高級店のサラダであるようにパクついているわけで、僕もカウンター越しに高級な花のサラダをお出ししました。お正月ですのでドレッシングに大吟醸酒を使っています。
 腰が非常に安定していました。腹筋がすごいのでしょう。
 中程も終わりに差し掛かる頃、花が牙を剥き、草を食い千切りまくる。ほほう、敵か味方か、これは草食花だったのだ。初夢だ。花のヒーローなにすべき。草まみれの歯を開けた花の吐く息が猛烈に芳しい。
 今日は早仕舞いだったのですが、お客さんの頭の中で急に戦闘が始まったようで、疲れる様子も見せません。腰が衰え過ぎずに衰えたかとも思ったのですが、草花がしおたれつつ生きつづけたうえ、あれはおそらく美味しい塩害で、仕舞いには焼畑の要領で焼き払われ、そのいきれの絶叫に焦げを加えて風味絶佳となったのでしょう。炎が鎮まり燻った煙の奥に立ち現れる一本の金木犀の強さは圧巻です。たった一本で四方1マイルに及び金色の匂いが漂うといいます。

・・・
コイーバが倍額計算なので、6本入りですが「14627/7=¥2090」となっています。コイーバは¥4180となります。


 最近、安い「葉巻もどきの紙巻」を常用している。『ダブルハッピネス』という。紙巻だと葉の量に関係なく「1本あたり幾ら」のタバコ税が掛るが、分類が葉巻だからか、純粋に葉の量で税額が算出されるらしく、巻紙が細ければ細いほど一本あたりのタバコ税が安くなる。分類が紙巻であれば、どんなに細くてもタバコ税は安くならない。ダブルハッピネスは細いぶん安くなる。(タバコ税に精通していないのでなんとなくなのだが、こういう理由で安くなっているのだと思い込んでいる。)
 『ダビドフ・ワン』が終売になった折、何に鞍替えすべきかと悩みに悩んで選んだ煙草である。大袈裟ながら絶望の中での模索だった。それぐらいワンに染まっていた。そこへ貧乏くさくも吉兆なこれが現れ、味が許容できる上、ずっと安いという、ワンが終売になてくれてかえって嬉しくなるぐらいの発見だった。より高額な煙草は、いずれも味が気に食わなかった。どれも妙に喉やら頬やらに引っ掛かるところがある。葉巻慣れしていたお陰でこれだけはすんなり馴染んだのだろうか。ワンとは似ても似つかないのに。
 煙草に親しみ始めた頃、ラッキーストライク・オリジナルやJPSを気に入っていて、随分経ってから次にラーク・マイルドに切り替えたのではないかと記憶している(父の死後に、父と同じラークに変えた記憶がある)。ラーク時代も長かった。この間、味への興味で、『若葉』や『エコー』などの安物から、ダビドフほか世界の高額紙巻をちょくちょく買ったりもしていて、それでもニコチン0.1mmの物などは興味の外にあったはずなのだが、ダビドフのみを味比べしようとダビドフを全制覇した時ででもあったろうか、ワン(当時は「ワン」という名称ではなかった)の天国的な軽さに当てられ急激にニコチンの低まった物を常用することになったのである。あの頃はまだシガリロの味も知らなかったのではないかと思う。あるいはコイーバとダビドフのシガリロだけは経験済みだったかもしれない。個人史の何時に挿入すべき話か自分でわからないが、コイーバのシガリロは黒く、ダビドフのシガリロは白いなぁ、などと思ったりしていた。前者の重厚さと、後者の香り高さを薄々感じていた。今もそうかもしれないが、薄々しか感じておらず、「えもいわれぬこの両者の違いをなんと表現しよう」などと考えていたかもしれない。
 最近の暴走族は何を思って走っているのだろう、年末に。年末に走るのだから、何末の意識は暴走族にもある。そこが最近可愛い。我がマンションにも暴走族の一員のバイクが止めてある。駐輪場で鉢合わせて、心底良さそうな奴ではあるが、同じバイクが年末でもない夏に約2キロ離れた駅のロータリーで単独で孵化しているのを目撃した時はなんだか恥ずかしさを覚えた。
 私は暴走族らしく14歳から煙草を吸っていて(暴走族ではない者たちの当時の煙草事情)、ダビドフワンに鞍替えしたのが25歳ぐらいだと思うから、昨年末に終売となるまで、おおよそ17年ぐらい愛用していたのである。他は併せても11年ぐらいなのに、むしろラッキーストライクの歴史のほうを長く感じる。その草が身に染みている。歳を取るほど1年を短く感じるとはいうが、ワンの軽さはけっして身に付かず、ふわふわと離れていくものなのかもしれない。
 昨年末に終売となったその貴重な残り香を、今年も年末だからと燻らせているのである。
 もう4箱しか残っていない。
 加えてダビドフ・マグナムも一箱残る。マグナムもワンと同時に買えなくなった。昨年の大晦日に、外苑前の煙草屋でワンの最後の1カートンを買い、マグナムを1箱買った。
 紙巻をヒュミドールに入れると紙が染みだらけになるし、味も別に良くならないので、外に置いている。
 来年の年末にはマグナムを開封してしまうだろうし、ワンともども4年後にはこの世からすっかり消えると思う。マグナムは取っておくと価値が上がりそうではある。外国語が面倒で調べていないが、もし日本のみで終売ということであったら嬉しい、個人輸入したい。
 かくして久しぶりにワンを1本、次にハッピネスを1本燻らせてみた。前置きの長さが愛着の深さを物語るのか。
 ワンはめっぽう軽くて密かに甘い。とはいえ煙草としての軽さをば感じない不思議。雑味皆無の羽がやはり生えている。17年間美味しく燻らせたが知らなかった、昔は私に完璧な羽が生えていたのだ。
 常用中のハッピネスはワンの直後にくゆらせるとよくよく葉巻たちを思い出させる。羽をもがれて落下するイカロスのようなことはない。味わいも深くないのに、許せるところが多い。許せるところが全てである。許しという、意外な名品ではないかと思う。緑草を黒っぽく塗りつぶしたようであるのに、何処にも黒色がない。
 ワンは葉巻の後に吸うと全く別の表情を見せたのに、ハッピネスは頑なに表情を変えない。ワンは葉巻の後に吸うと葉巻めいたのに、ハッピネスは頑なに「もどき」の表情を変えない。
 ダビドフの紙巻は巻紙の欠片がひらひらと勝手に火種を離れ自分のズボンの上や喫茶店の隣席の人の顔の方へ散り漂う欠点があった、この紙の軽さも懐かしい。ダビドフは葉巻でも灰がポロリする物が多い。
 ダビドフの紙巻はドイツ製で、終売の3年ぐらい前だろうか、生産工場を変えた時に「血じみた鉄臭さ」が香るようになってしまったのだが、工場の鉄も馴染んでいたのだったか、今日の一本にも血を感じない。血が嫌で当時ダビドフを辞めようとしていろいろ物色したのを憶えている。結局ダブルハッピネスのような代わりの物が見つからず、いやいやダビドフの血に慣れていったような記憶があるが、工場の慣れなのか(工場が血を失ったのか)、私の慣れなのか(私が血を感じなくなっただけなのか)判然としない。

 以上の長文はなんだろう。
 紙巻きの場合、普通はなんらかの決まった銘柄を常用し、稀にその他の紙巻を貰ったりすると不味い違和感が絶対にあるが、この二つは交互にも不思議とそうした不味さが生じない。ダブルハッピネスは細いので携帯灰皿をすぐに満杯にしない点も良い。
|La Couronne| $92.5/10+$36.84/18=¥1,200|2020/1/30・arr 2/8|
|LGR AGO 19|4.72’ x 50|重量:16.29g?|香:3.3~3.5ave3.4|残0|

10ヶ月で10本が灰になった。
橙のような、その皮の風味と苦味、果肉の酸っぱさがある。爽やかながら、淡いハバナ葉めいた酸化色の深みの中に。この葉巻の特徴は一貫してこの橙にあり、あとは草花やクリームというお馴染みの変化を加え、相まって微妙に姿を揺らがせる比喩の幻影たちを見る人のみ見るというていである。
濃さは薄く、強さは弱い。淡麗だがクリスタルの綺麗さなく、朴訥とした雰囲気というには若干華やか。寂しさが淡く漂う。私小説の「つまらない私」の見る景色のような。
この箱は何だったのだろうかと思うだに、橙に行き着いた。最後に来て、果汁を吸い出すのに困難なドローだった。リングを外す頃、酸化色がずんずん深まってゆく。
積極的に楽しもうと思えば結構楽しめる葉巻だったのかもしれない。

重量がおかしい。確かにドローはカチカチの柑橘だったが、それにしても重い。軽量ミスなのか?
|next cigar|$108/10+¥2500/10 ≦ ¥1400/1|2020/12/1・arr 12/8|
|―|6” x 50|--g|香:2.4~2.4 ave2.4|残9|

 注文しても全然届かない事態が今年前半にあった為、しばらく控えていたものの、久しぶりに注文してみたら郵便引受から4日で届く。前回3ヶ月近く待ったのが嘘のよう。

 この葉巻、昔から気になっていた、「マラケシュ」の響きが。
 昔、マラケシュを訪れようとして断念したことがある。スペインからタンジェへ船で渡り、翌日からモロッコを周遊する予定が、タンジェのあまりの治安の悪さに半日で辟易して翌日朝飯も食わずにスペインへ逃げ帰ったのである。スペインも港町は治安が悪かったが、その比ではなかった。キューバの港はどうなのだろう。
 開梱するとボベダ入りながら葉巻はパサパサのカチカチ。カッターで切ると切口が砂のよう。乾燥室で保管されていたのか、4日間の輸送中に加湿したところで間に合わない。気持ちダビドフ風味はあるものの、味は一貫して渋い。渋柿を齧り続けた。
|La Couronne| ($496+$36.84+¥10,700)/8=¥8,700|2020/1/17・arr 1/28|
|ATE SEP 19|6 1/8 x 55|重量:18.10g|香:3.5~4.2 ave3.8|残6|

 高山植物を思わせる草が甘やか、ズブロッカの壜を見つめるような感覚で、それがやはりクリスタルめいている。ハバナだから勿論ハバナ感はクッキー風味程度にはあるけれど、ロメオらしく希薄で、この希薄さも空気の薄い高山に導くらしい。とはいえ茶褐色に酸化した液体に特有の旨みのようなものがあり、そこに、カフェオレに氷が浮くように丸みを帯びた白いナッツが温かく浮き、マカダミアの旨みのようなものも生じてくる。草は硝子の中で依然ぴんと張り詰めている。
 この葉巻の美味しさは、トリニダッド系といおうか、迫ってこないので、追っていく必要がある。ただ前回見えた異様な甘みは今回は感じられない、それでもなかなか甘い。
 と思ったが、突如歯の裏に水飴がくっついたかのようにまたも異様に甘くなった。歯も唇も水飴でコーティングされていく。無色に澄み渡った爽やかな翠香のある、べったりした透明な甘味。
 この不思議とこってりした清流に杏仁豆腐が流れてくる。その豆腐は石の重みであるのだが、清流の方が比重が重いらしく、軽々と運ばれてくる。いつの間にか、また私は小舟に揺られてしまっているのだ。杏仁豆腐がどんぶらこどんぶらこと舟を掠めてゆく。見た目は軽いが、手を出せば危険で、近づいた時のほのかな香りを楽しむだけで、安穏と手を引っ込めておかなければならない。欲張りは死の元だ。
 すっと景色が消えて、後は無の調子が長い。
|gestocigars|(331.50CHF+ship36CHF)/20≒¥2000|2019/12/17・arr 12/27|
|UTL ABR 18|130mm x 49|13.52g|香:-- ave--|残16|

 今日はデュマスさんがお見えになりました。昔は騎士だったそうなのですけれど、相変わらず深々と甘やかな雰囲気で、ぴったり珈琲をご注文なさいました。恰好はそう小さくはないはずなのですが、コンパクトと申しましょうか、より大きい方が凝縮されたお人のように見えるんです、不思議です。普段は草ばっかりお召しになるそうなのですが、どうして、ブランデーの古酒のような肌艶なんです。お口から吐き出される煙からも、草の香を漂わせらるるのですが、これもやっぱり深々と甘やかで、全てにおいてキャラメルソースを一滴垂らすような、気前の良すぎる感じがありました。香水をお飲みになったのか知りませんけれど、吐息の底の方から花がじんわりと、そう、ちょうど地を這うドライアイスの粒々が風の拍子で舞い上がるかのように花が立ち昇ったり。凡人と違って、花が上からは来ないのですよね。完全に花が人体に染みているのだと思いますよ。濃くて、重みがあるんですね、花にも。かといって重すぎず、蜜を塗ったままでも浮くというんでしょうか。ふと僕が埋まってしまって花ともども蜜どもども分解されて土に還っていく感じがしましたよ。地中に埋ずもれて、地上にはキャラメル色をした霧がうっすら、だったと思うんです。騎士が見せる幻だったと思います。デュマスさん、どんな記憶を宿していらっしゃるのでしょう。そら無口ですよ。声をお聞きしたことがありません。
|La Couronne| $92.5/10+$36.84/18=¥1,200|2020/1/30・arr 2/8|
|LGR AGO 19|4.72’ x 50|重量:15.21g|香:-- ave--|残--|

 前回と重量が違いすぎると思いました。計量ミスなのか、筆記ミスなのか、この日のお客さんについてメモしたのはもう結構昔の事なので、よくわからなくなってしまいました。パンチパーマの人でした。具志堅用高なら計量ミスなどあり得ないのですが、ほんと、名前のとおりというか髪型のとおりというかパンチ砂糖のように甘がっていましたね。葉巻もなんだかパンチをオススメしたんですよ。甘いっていいものですよね、こと葉巻なら甘いに越したことはありません。木質の素朴すぎるような風味らしいのですけれど、焚火の雰囲気も目に宿っていました。火で髪の毛がパンチになったのでしょうかね、目がメラメラと燃えていたのですよ。それからしばらく甘味を失ったかのように緘黙してじっくり味わってらしたのです。花が咲くまではね。緘黙の間、何があったのか、僕にはわかりません。佐藤さんはまるで哲学者ですよ、何も良い考えが浮かばない時の哲学者にそっくりです。ハバナの風味は木っぽく漂い続けていましたけれど、木にしてはどうも濃い感じでした。で、花が目から咲いて、茶色い花でしたね。苦笑してしまいました。咲くには咲くのですが、どうも花離れが悪いというか、木に粘着していてですね、空想の世界に誘うという感じではなかったですね。結局名案は浮かばなかったでしょうよ。これは大量の花の汁を染ませた木なのではないかというお顔でしたね。花の汁が最後へ向うだにいや増して染み出してきましたから、木の汁と一緒に。
|cigarOne|121.60/20CHF+¥120≒¥790/1|2020/2/16・arr 2/23|
|MSU AGO 19|3.5’ x 50|重量:9.48g|香:-- ave--|残3|

 いつものお客さん。
 いつものD6をご用意したのですが、フットを見て不審がり、うまくひっこぬけたようでした。髪の毛が入っていました。「申し訳ないです」というと「気にしないよ」と仰いましたが、気持ちの良いものではありません、髪の毛ですから。強引に交換して差し上げるべきだったかもしれません。わりと長年やっている僕も知りませんでしたが、不味い葉巻にはもしかしたら髪の毛の燃えた味が混入しているのかもしれませんね。フットから一本の毛が生えている、今考えると笑ってしまいつつ、ぞっとしてしまいますね。味は悪くはないようでしたが、印象が良くなかったに違いないですし、悪くない味も良くはなかったみたいです。
|knokke|€13.9/1+¥750=¥2500|2020/3/9・arr 4/9|
|―|5.12’ x 52|重量:14.04g|香:3.7-4.3 ave4.1|残0|

 藁の醤油漬が半乾きしたような毛並の馬でした。この馬を馬が食べたら相当なご馳走でしょうね。で、馬に似た葉巻を吸わせたんですよ。パルタガス・マデューロ No.1です。何しろ今日のお客さんは馬だったんですから。業界長くやっていると、さもありなん、と言ったところなのです。お馬さんですが、初っ端から濃い味付けの藁をパクパク美味しそうに頬張っていましてね。ぼくが「ははぁ」と思っていると「ひひぃん」と言いました。まあ「味が濃くてウメぇ」と牛のようにいうところですよ。僕はこの葉巻の味は聞き知っているだけなのですが(今回も一本しか仕入れませんでしたので)、やっぱりかなり濃かったみたいですね。黒糖を塗りたくった麩菓子の醤油味みたいな物を連想させる香りが店中に回っていました。甘さは黒糖より控えめらしいですが、しっかり甘さとして感じられるよヒヒん。黒糖の田舎っぽい風味もありましたし、馬には最高の御馳走ですよね。馬の頭の中の黄土色の藁も茶色く美味しくなっていましたが、現に茶色いそれが、頭の中では緑化したようでした。馬の気持ちを悟るのは、人間相手のそれよりは難しいのですけれどね。緑色の過去、記憶というのは過去の方が新鮮なものです。過去のほうが若かったからですかね。で、やっぱり緑も醤油と黒糖でたっぷり塗られて、現在と過去のいいとこ取りで、ご満悦なんです。珍しいぐらい重厚な白ワインが入りましたので、馬にアルコールも与えました。そうするとね、急に春満開のように金木犀や菊なんかが季節に関係なく廻るんです。駆ける気分ですね。そして芋掘り、子供たちが畑で芋掘りしているのが馬の目に映る。
 まだ馬の耳に念仏を2センチしか唱えていなかったんですよ。この間、ようよう馬が葉巻を2センチ焼尽したということで、先は長いですね、はじめ濃いから、長く感じられるのかもしれません、馬にも。恋も、初めは一生モノのように永く感じられませんでしたか? それと同じですかね。
 昔コイーバのマデューロを別の馬に喰わせた時も同じだったのですが、どうも次第次第に煮詰めた苺などの果実に気付くらしいのですね。醤油とか、花とか、そういう物が収まって、かと言って収まっておらず、煮詰めた苺に収斂していくと言いますか。そうすると何故かバターやカスタードや蜂蜜を塗った香ばしいパンに苺ジャムまで塗ったような、豪華なパフェのような朝食が訪れるんです。デザートではないのですね、朝ですから、朝だからパンなんです。馬も人間と同じですよ。つまらない藁ばかり与える人間が悪いだけなんです。
 ものすごくカスタードが膨らんで、その膨らみに胡椒をかけるのがお好きみたいです、お馬さん。現代の前衛パティシエに通ずるところがありますな。ものすごく高貴なお馬さんですよ。完全に貴族ですね。貴族は農園も持っています。貴族の朝食は豊穣ですよ。お馬さんが店に訪れたのは深夜でしたけれど。
 灰がプヒッと4センチぐらいで落下しましたっけ。ずいぶん長い時間に感じましたのにまだ1回目の落下なのか、とそれをもう虚ろに眺めていました。副流煙だけで鱈腹でしたから。
 突然俄雨で土が湿りましてね、頭の中で元気に店を泥で汚していましたよ。あれはもう汚れではないです。元気の証で、そこにレモンを絞った。するとレモンの花が泥から顔を出す。エニシダかもしれないです、人間界で言ったらあれは香り高くも毒物なのですが。エニシダって、金木犀の蜜とレモンの蜜を混醸したような爽やかな濃密な香気芬々としますよね。ちょうど今頃外では咲いているはずですよ。
 中頃から、馬もお疲れになったようで、放心のていで煙を吐き出していました。ちょっと茶味がかったコーンフレークぐらいのものでしたかね。それと珈琲の苦味。
 なんか葉巻の中からパチパチと爆ぜる音が3回4回5回と聞こえました。ドンパチというお菓子を舐めたみたいに。馬頭が吹っ飛ぶんじゃないかと心配したんです。馬頭琴の音色だったら甘美なのですけれど、静電気が爆ぜる音のようでありました。馬と僕が脳の電気で通じているんでしょうかね。最後は滋味深くおいしい馬肉のようなお馬さんになっていましたね。去り際、素晴らしい蹄の音でした。ぱかぱかと。花を残して行って仕舞われましたね。とても充実した濃い一日でした。馬の顔はさすがに憶え難いのですが、また同じ馬にご来店頂きたいです、その時にはちゃんと同じ葉巻を箱で揃えて置きたいですね。マデューロの副流煙も、お馬さんも、たまには良いものですよ。そうそう、忘れていましたが、馬も藁より葉が好きらしく、サラダも注文された気がします。栄養のバランスなのでしたかね。

忍者ブログ [PR]