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  源氏物語「葉」
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|MPE FEB 10|235㎜ x 47|coh-hk|$92.65/5|重量:(+2)|算出:−1|香味:+1|

 夏至付近、昼、雨。
 葉巻をはじめる前から葉巻に抱いていた印象を蒸し返す蒸した匂いがする。雨だからだろうか。ビニールに包まれたまま三年が経過したからだろうか。だが今やこの大きさは小さい、はじめる前はそれこそこれは偉大だった。
 いつもの(といってもまだ6本目)Aより吸い込みがすんなりして、初っ端からなかなか濃い味わい。知る限り全盛期のモンテクリストの味わいである。なんだか懐古的で、葉巻独特の香ばしさが濃い。
 5ミリも進むと香ばしさは後退し葉巻全般と同様の変化が来てしまう。濃い香ばしさは白木にしらけて、草などが生え薄荷のように爽やかに甘くなり、でもかろうじて革の威厳は残している。革のニュアンスを残して、葉(及び革)そのものが主役ではなくなった。胡椒のような革。中低域が弱く、揮発性の木のような、うわずったハスキーボイスのような薄味の雑味。中低域が弱ければたいてい高域の伸びも駄目である。
 しばらくつまらないが、ふと甘く黄色い花が飛んでくる。一輪だけ。
 Aというのは世界の批評を集めても「美味しい‘と思いたい’」というのが大半で、実際には美味しくないのである。ハズレ難いという事もなさそうで、巻くのが難しい物でもあるからハズレやすさは通常品の倍ぐらいではないかと思う。
 突如煙の量が増し、煙濃く、金木犀が満開になる。たったの一口で一息に満開になる。世界の批評を集めるだの言っていたが、これでやっと序盤が終り、一段落着いたのである。兎に角Aは変化が遅い。Aの特徴はそれに尽きる。されど金木犀は二口ですべて枯れ落ちる。
 かと思えばまたしばらくして同じように咲く。どうもこのような不安定さは吸い込みの悪さに起因しているらしい。ドローは悪くないのにドローが悪いという、A特有の現象のような。つまり巻きが悪いのではなく吸い方が悪いのである。吸う人に対して厳しい葉巻なのである、たぶん。だが誰が誰を下手といえるだろう。上手く吸っているつもりの者が味音痴かもしれないではないか。どんなに巧い人でもこのAを前にしてはあまり上手く吸えないかもしれないではないか。そもそも葉巻自体の欠陥かもしれないではないか。なるべく間隔を広く取って、吸う時は強く吸う、それぐらいの事しかできない。すると自分勝手なペースは崩されて、人が葉巻に合わせなければならなくなる。ここまで気難しい葉巻に集中するなら別にやる事があるに違いない。葉巻の方から勝手に惹付けて来るという物ではない。本当に惹付ける葉巻なら、此方が勝手に合わせてしまう。合わせたくなくても合わせてしまう。
 数百口吸ったが、美味しいのは三口ぐらいだった。加えて序盤三口、計六口が美味しい。吸う前の香が一番美味しそうだった。
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葉巻は吸わなければ吸わないほど熟成が進む。最近あまり葉巻を吸いたくないのだが、こういうヘンテコな理論を思いつくと吸いたくない為に吸っていないのだという気はしない。吸いたいのに我慢しているという気になる。さらに、葉巻は買えなければ吸う気がしない。最近葉巻を買えないのである。買えなければ、吸う気がしないのだから、それでいて吸いたいのだから、良く出来ている。金欠でやめるなどという事はありえない。

春先はダビドフNo.3だったが(買わずじまい)、最近は、或いはセレクションのロメオを味わって以降は、熟成物のロメオに興趣が向いている。早枯れせず、早熟にして絶妙であるに違いない。
いっぷくを彩った工芸品
現時点の経験で各ブランドの特色をなるべく一言で纏めてみました。
同一ブランド内でも色々あって一筋縄にはいきませんが、最たる特色のみを抽出す。

        BOLIVAR  靴屋
        COHIBA  岩
         CUABA  床屋
    DIPLOMATICOS  甘い爆弾
  EL REY DEL MUNDO  荒野A(日曜の午後のサザエさんの寂しさ)
       FONSECA  胡椒(辛いロメオ)
       H.UPMANN  杉
HOYO DE MONTERREY  赤十字
      JUAN LOPEZ  寂寥
  LA GLORIA CUBANA  荒野B(純然たる荒野)
     MONTECRISTO  青緑
      PARTAGAS  芋
   POR LARRANAGA  (不明)
        PUNCH  クリーニング屋
     QUAI D'ORSAY  (夕暮)
  RAFAEL GONZALEZ  荒野C(荒野に香水)
   RAMON ALLONES  褪せたフルーツ(褪せたロメオ)
   ROMEO Y JULIETA  フルーツ
    SAINT LUIS REY  農具
    SAN CRISTOBAL  揮発性の木
    SANCHO PANZA  胡麻団子
       TRINIDAD  杉マーガリン
   VEGAS ROBAINA  カカオ
       VEGUEROS  漢方薬
 最近保管庫の湿度を上げたからか、香味は変わらないが(というのもおかしい気がするが)、味わいが味わいの全てに於いておしとやかになった気がする。この一本がたまたまおしとやかな味わいだっただけかもしれないが。もっとも、味わいを言葉にしてみても言葉は変わらず、ただおしとやかになっただけで、おしとやかであるほうが美味しい。
 72%に上げたのである(湿度を上げるのはやや骨が折れる)。これまでは68〜70%だった(クーラーボックスに詰め込んだ葉巻の箱が勝手にこの湿度を保つのであり、半年ぐらいは金魚に餌をやる必要もない)。カット時にヘッドが割れてしまう事もあったが、72%だとそれもなくなりそうである。葉巻がぶよぶよとした弾力を帯びている。この一本がたまたまぶよぶよしているのかもしれないが。
 それに熟成も進みそうである。湿度が高ければ高いほど熟成(あるいは単なる変化)は進みそうだが、80%(あるいはそれ以下)を超えるとヒュミドールに葉巻の色が移ってしまう。これは見てわかる事で、色素とともに葉巻の成分が葉巻ではない物へ水分とともに流れ出てしまうのである。色素のみが移動するなどという事がありえようか。
 温度も高ければ高いほど熟成(あるいは単なる変化)が進みやすい気がするが、温度が高ければ湿度を押さえなければ黴が映え、湿度が高ければ温度を押さえなければ黴が映える。
 兎に角四季折々の常温放置の私としては今は72%が適切ではないかと思う。冬は75%ぐらいで、夏は69%ぐらいにすれば良いのかと予測する。
 この一本というのはアップマン・マグナム46なのだが、これほどおしとやかなこれはこれまでになかった。
|7" x 48|seriouscigars|$226.95/8|重量:+1(15.93g)|算出:+5|香味:+4|

 三ヶ月経ったので落ち着いただろう、と思って2本目に火をつけると残6本。いつもの調子で三ヶ月だの六ヶ月だのとやっていると最終的に2本足りなくなる。
 ダビドフにしては土っぽいコクが目立つ、非常に柔らかい高品質の漉したような土。土に湿り気がなくさらさらとしているが、上空を舞う事なく、どことなくしっとりとして、土なのでコクがある。前回はクラシック寄りの感覚だったのだが、この土はアヴォ寄りかもしれない。
 その土にレンゲの蜂蜜のような、アカシアの蜂蜜に比べて若干煩いような草っぽい香があり、土をほんのりと湿らせている。どちらかといえば嫌な緑と黄で、甘さが薄い蜜のように垂れてくるとかえって蜂蜜を忘れたような心地よい花が咲く。
 草はしぶとい。それから灰を思わせるケムリが生き生きとしてくる、灰が生きてもらっては困るのだが、灰が生き生きとしている。
 優しそうで優しくないところはクラシック以外のダビドフに通じている。土から徐々に松茸が生え始める。松茸は筍のように立派に育ったりはしないのだが、竹薮の香に似てもいる。蚊に食われそうな怖さがある。美味しいが、優しくない。
 ふと松尾芭蕉を想う。芭蕉はウナコーワだの虫ペールだのの無い時代の人物で、古人の不思議な智慧で虫を除けはしたかもしれないが、それ以上に蚊のいる処が好きだった人であり、現代人の百倍は蚊に喰われた事がありそうなのに、一言も蚊に喰われたなどという愚痴を零さない人物である。というのも私はゴールデンウィーク開けに芭蕉庵を訪れて、今年一番の蚊に喰われたのだった。庵内の竹薮に時節にあるまじき薮蚊が沢山飛んでいるのを見て、風流そっちのけで退散したのである。まるで虫が人ペールを纏ったかのようだった。
 想い出を周遊しているとふとこの葉巻から素朴な煙が燻り立つ。久方ぶりに和室で寝転んだかのような。それでいて和室の壁は焦茶色の古びた木材である。それらに夏の蒸した感覚もある。今宵は涼しく、明らかに十二時間前の夏日に影響されたのではない感覚であり、ケムリ自体がその雰囲気の味、夏を俟たない夏の味である。日本の夏に比べるとやや乾いた夏。
 惚けていつの間にか終盤に至り、気付けばつくづく感傷的な味わいである。それから粘土(乾いた粘土)っぽくなったり、緑色の雑草が消えたり、花が退廃的に咲き誇ったり、土が完全に木を育てたりして、葉巻よりも吸っている人のほうが消え入りそうである。
 始終日本酒を呑んでいた。べつに日本酒が合うという事はない。
|LOE JUN 12|4 3/8 × 40|coh-hk|$176/25|重量:-1(--g)|算出:+4|香味:+3|

 お焦げ付き食パン
 バター
 コンデンスミルク
 タピオカココナッツ
 香草サラダ
 苺ジャム+ダージリン(ロシアンティー)の渋味。
 豪勢なのか爽やかなのかわからない朝食だが、この葉巻が朝に向いているというわけではない。深夜に明日の朝食を思って薫らせている。
 お焦げ付き食パンのフィネス・バターのこってりさ・コンデンスミルクのニトロっぽい甘さ・タピオカココナッツブーケの情緒・香草サラダメドックの爽やかな刺激・恰もポリフォンポリフェノール入り苺ジャムの古い記憶、飲み過ぎたタールダージリンの渋味ボディ、時々香草とタピオカがワインの脚のように混じって大変なもつれ具合になっている。まるで美人が今にもコケそうな勢いだ。
 それからまことに後半に入ると早朝から親子ゲンカした息子が反抗期らしい自暴自棄に因り自分のパンにタバコの灰を下塗りするようである。彼は煙草を吸う年齢ではなく、かといってそれを咎められたのではなく、灰を食べる年齢のようだ。バターを塗るより前にパンに灰を塗り、その灰色のパンの上からやはりコンデンスミルクより先にバターを塗るようだ。それからコンデンスミルクを極めて自暴自棄に薄く塗って、やはりタピオカココナッツでディップしている。時々パンにサラダを乗せて朝の時間を稼いでいる。サラダを単独で食べるよりも早い。
 パンという物は画布のようにどんな絵具を乗せても合うようだ(だがチーズは合わない。チーズは出てこないようだ)。パンが消えたらどうなるのだろう。すると息子はこっそり親子ゲンカを後悔しながら寂しくドアを閉めて「いってきます」もいわずに学校に出掛けるのであった。どっちみち夕方にはいつもの馬鹿面を下げて帰ってくるだろう。
 嗚呼、朝のホームルームが終って束の間、灰色の朝食の想い出が蘇る。おれはこうして不本意に親子喧嘩ばかりして灰の苦い味わいを嗜み尽くすのみの連続のまま死んでいくのだな、と才能豊かな律儀な若者は思う。でも帰ったらお父ちゃんの葉巻を一本盗もう。それでぐでんぐでんになろう。ビールも一本盗むのだから。部活で一緒の友達なんていう者どもは紙巻煙草を吸って放課後いい気持ちになっているのだからな、彼奴らに明日葉巻のカスでも見せてやろう。兎に角今日は大壜だ、あれは大壜というビールだ。今日は633ミリリットルも飲まねばならない。中学生がそんなに飲むと、立っていても地面が身長十センチのように見えるのだからなぁ。兎に角吸うよ、飲まずとも吸うよ。
 嗚呼、おれは結局菩提樹が好きなのかもしれない、だって突然菩提樹の分厚い樹皮の香りがしたんだもの。これはフィネスっていうらしいよ。まあフィットネスみたいなもんさ。要するにくびれだね、首がくびれたね。
|TAU JUN 11|166mm x 52|シガーオンライン|$490/10|重量:+1( 17.87g )|算出:+2|香味:+3|

 ほぼ一口目から紛れもないコイーバの味。吸い込みはけっこう悪い。すぐに甘くなって花やクリームが乗る。
 悪しき「揮発性の木」とは違うのだが、カスタードにミントを添えたような爽やかさがある。コイーバの味は「岩」というより「茣蓙を焦がした」ような感じで、これは特別に「リミターダ風」なのだろう。
 赤ワインが合うなんて、初めての相性である。ワインを一口、その後に一口煙を吸うと同時に、煙の作用でか、ワインの葡萄の香と灯油の甘味とがもう一口飲んだかのように濃厚に戻るような。高いワインには灯油のような香がしばしばあると思うのだが(ワインの事はほとんど知らない)、その灯油とリミターダの水っぽさ及びコイーバの香がまさにマリっているのである。それも、アントゥ・ニンケン・カベルネカルメネーレという安い(安いのに灯油香がある)ワインで。灯油の揮発性とミントも手を繋ぎ回転する。ワインは一口で二度美味しくなるし、煙はワインの高貴な煙を加えるばかりで、互いに傷を一つも負わせない。これならもっと高いワインでも怖れなくて良いかもしれない。高ければ高いほど怖れるにあたらないのかもしれない。「おめでとう」というおめでたい言葉が出そうになる(マリアージュというのは要するにそういう事だ)。そういえば私は「おめでとう」という言葉を生涯一度も発した事がないような気がする(特別暗い意味ではない。ニコニコしながら「どうも」と言っていたようなもので、ワインとの相性ではなく葉巻のみだったらやはり「どうも」という事になると思うのである。つまり人間に対して二本の葉巻を見た事があっても葉巻とワインのような相性を見た事がないのだ。)。
 葉巻からは灯油の香はせず、それはワインが切れるとはっきりとし、葉巻の香は生ガス(プロパンガス)であることがはっきりとする。蓄膿症及び頭痛と紙一重のプロパンガスであり、リミターダの黒いラッパー(及びハバナ全般の黒いラッパー)と連結しそうな香である。
 中盤でワインが切れると徐々に不味くなっていった。おそらくワインがないから不味くなったというのではない。雑味を消すには甘いリキュールが必要で、必要でありながらも甘いリキュール自体には複雑さがない場合がほとんどだから、相性としてリキュールは誤魔化しの域を出ない。
 依然、圧倒的にBHKのほうが品質が高いと思う。
|6 1/2 x 52|seriouscigars|$14.00|重量:+2(19.81g)|算出:+2|香味:+2|

 「安い・美味い・でかい」が身上のオリヴァは、いつも安いなりに美味しくなく、しかも美味しいと思わせる思わせぶりなところがいつもある。美味しいという人がいれば、思わせぶりなところに思わせられちゃったのであろうと思う。私も—初めての個人輸入でオリヴァを買って—馬鹿みたいに思わせられちゃいそうになったが、初心者ながらに何処か引っかかるところがあった。つまり初心者でもわかる引っかかりがあるのである。何か重要な部品が欠けているというか、要するに思わせぶりなだけだと。
 通常のVの焦茶色のラッパーと比べると明らかに明るく、所々に水分が染み出たような焦茶色。
 着火するとすぐさまふくよかな甘さと草。両窄まりの細さから、一瞬ハバナ葉の香(しかも高級そうなハバナ)がくゆり出されるが、間もなくニカラグアらしい枯芝が追ってくる。芝は乾いた汗のような臭さと紙一重である。
 最大口径に差し掛かっても、強くはならず、枯芝も深まらず、膨らみも膨らまず、なかなか脳天気で広大な原っぱである。そこで弁当箱からチョコを取り出したような。麦チョコなのか、しかしチョコは薄く、弁当なのだから菓子よりも麦や米のほうが強い。おにぎりの海苔をチョコで代用してしまったようなものである。もっとも米というよりは断然麦だが、あまりにも原っぱである為、日本の私はそれをおにぎりだと思うし、おにぎりに海苔を巻くようにしてパンにチョコを巻くわけにはいかない。架空の妙なこだわりである。それにしても素晴らしい原っぱで、茣蓙を強いて寝転んだかのように草いきれの匂いが安定している。
 通常のVにある、黒人の美しい肢体に映える思わせぶりな銀味は無い。醤油の風味というか、染みた味わいが少しある。その醤油の染みがあるいはチョコを排斥して米に近づけ、挙げ句の果てにはもっとも麦であるにして麦をも遠ざけるのである。この葉巻は麦に一番似ているのに、麦ではない。
 味は足跡だらけの原っぱだったが、葉巻を見ていると突如前人未到のモンブランが現れる。なかなかここまで美しい灰の落ち方と火種の美しさは見られない。ゆっくり吸っていたのにモンブランで、横から見ると鋭く、正面から見ると穏やかな形をしている、火種が。実際のモンブランの横の形がどうだか知らないが、兎に角火種がスクエアプレスを維持して見せる。灰が万年筆のキャップをポンと外すかのように真っ赤な火種を綺麗に残して落ちたのである。
 中盤に入ると典型というか典雅というか、花とカスタードが僅かに漂う。実に良く出来ていて、モデルさんが服を着こなすぐらい安定しているのだが、そのモデルさんはまさに高級なのだが、服がどうも三文会社の物のようだ。三文オペラというか、まさに三文字の店のスーツ。
 お前、馬鹿だろう。何で突然スーツなんだ。失笑してしまうね。大体あんたはスーツのイロハもわかっとらんだろうに。
 確かに私にはスーツがわかりません。まさか胸ポケットからハンカチが出過ぎていやしないでしょうか? 
 出すぎどころか、ハンケチが引っ込みすぎだというに。
 幾分安いスーツなので、安いからハンカチも引っ込み思案なのですね。
 ケチというんだ。しかしなんでスーツなんだ。
 こっちが知りたいもんですよ。なんでスーツを着て原っぱでネコロバニャならんのです?
 スーツはまだいい、ネコはいけない。
 ネコの味はしませんがね、でも、地があればでんぐり返しを打たねばならんでしょうに。むろんスーツの味もしませんや。
 じゃ私は消えるよ。じゃあね。
 一度目はモンブランが現れ、二度目は湖だった。波の一つもない、でんぐり返しの打てない早朝の湖。なんで火種なんかにいちいち景色を見てしまうのだろう。葉巻が不味いからだろうか。火種サイズのみみっちい景色なんか銅版画でも見られない。でも昔からみみっちい絵が好きだった。コピー機にしても縮小印刷機能ばかりに興味があった。
 尊大なみみっちさだな。
 リカット。
 最初に細く切っていた為、段々吸い込みが悪くなってきていた。吸い込みが素直になり、溜まっていた雑味が一度堰を切って噴出する。経験上それをやり過ごせる雑味だと知っていた。こうして玄人感に浸るが早いか、茨の土石流は確かに鎮まり、原っぱの緩やかな底にある小川が茶色く濁る程度になる。小川沿いには花が咲いている。うすら甘くて、濁った小川を飲み干したいような。なんといってもここは原っぱである。ラッパのマークの原っぱなのである。
 連歌の雅もなく、語感のみに突き動かされ、私はたちどころに嘯くように正露丸を欲した。しかし何も下るところは無く、だからこその陽気な正露丸であった。するとやって来たのであった。最終盤という、まさに最終盤そのものの風味でありながら、しかしかえって軽やかさ加わり、最終盤らしくない、とどのつまり変な刺激がやって来た。
 そのようでした、原っぱの上であるにもかかわらず、この上なく立派な紙巻煙草を吸っていたのでした。五十センチもの長さがある紙巻煙草で、嫌というほど堪能しました。その紙巻煙草が二十五センチで前触れもなく折れると、優しいクリームが香るではありませんか。しかもまたマッターホルンがほんわかと聳えているではありませんか。ええ、横から見ると峻厳です。しかもそのホルンの頂上には草が生えているのですよ、まったくただの草が。雑草といっても良いぐらいです、雑草にも花は咲きますでしょう。すると空が土石流なんですね。ああ、モンブランとマッターホルンとを取り違えてしまいました。ええ、喇叭のホルンの所為で。そもそもスクエアプレスを横から見るとモンブランがマッターホルンだといったではありませんか。馬鹿め! 一体馬鹿が誰なんだ。若布がバナナんだ。
 何という軽さだろう、土石流の不安のように空が茶色いというのに。茶色いというほど空は茶色くないのかもしれない。私は空よりも重い。空よりも重いという事だけが尊厳である! そうだよ、ケムリというのはこういう物だよ。ケムリというのは少しだけ頭がおかしいものなんだ。

 一口目が一番美味しかった、たとえそうだとしても、無理に期待させるところもなく、したがってか、けっして不味くはならなかった。良く出来た葉巻だと思うのだが、群を抜く香味には依然欠ける。期待させはしないが、安定感では群を抜いている気がする。当り外れなく、メラニオの全てがこのような物なのではないかと思う。
 少し関係がある気がするのだが、『カラマーゾフの兄弟』に「百姓なんかに葉巻を振る舞うな」と叫ぶ宿の主人がいる。この葉巻は貴族も羨む百姓用の高級品という感じなのだろうか。
 目の前の事すら見えなくなるケムリなんかにかかずらっていたら遠くなどまるで見えなくなってしまい、『カラマーゾフの兄弟』級のものは少しも書けなくなってしまう。
|GUT JUN 12|6.1 x 52|coh-hk|$102/10|重量:+1(15.34g)|算出:+2|香味:+2|

 この箱の4本目にしてやっとモンテクリストらしくなってきた。この一本がたまたまモンテクリストにしてモンテクリストらしいというだけかもしれないし、私が少しはよく知っているNo.1に近づいてきたというだけかもしれないけれど。
 薄く叩いた白粉のような香の粉砂糖の甘さにいつもの濃厚な葉っぱ感と、いつもの青緑色の空というか、時を告げる鐘に埃のように沈着しはじめた緑青である。それからココナッツ寄りのカスタードの予感。パンを焼く窯が鐘なのである。それで未だ全然パンは焼けていない。窯の扉が開くように梵鐘を開く事はできない、堅牢な綴じ蓋である。いつの間にか鐘の中のクリームパンを期待していた。一体何処からパンが来たのか、兎に角葉っぱでパンを燃している。葉っぱを燃しながらも葉っぱを燃していないからパンを燃す事になるのだろう。
 濃くて強そうな感じはするが、淡さと軽さもある。味は濃くニコチンは弱いような。序盤3センチでニコチン1.0ミリグラムの紙巻煙草程度の喉越しで、最終的には20.0ミリグラムぐらいの感覚にはなると思う。
 中盤以降、残念ながらこの葉巻がハズレだったといわしめる方向に向かう。

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