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  源氏物語「葉」
++葉巻++シガー++レビュー++個人輸入++ブログ

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|6 1/2 x 52|seriouscigars|$14.00|重量:+2(19.81g)|算出:+2|香味:+2|

 「安い・美味い・でかい」が身上のオリヴァは、いつも安いなりに美味しくなく、しかも美味しいと思わせる思わせぶりなところがいつもある。美味しいという人がいれば、思わせぶりなところに思わせられちゃったのであろうと思う。私も—初めての個人輸入でオリヴァを買って—馬鹿みたいに思わせられちゃいそうになったが、初心者ながらに何処か引っかかるところがあった。つまり初心者でもわかる引っかかりがあるのである。何か重要な部品が欠けているというか、要するに思わせぶりなだけだと。
 通常のVの焦茶色のラッパーと比べると明らかに明るく、所々に水分が染み出たような焦茶色。
 着火するとすぐさまふくよかな甘さと草。両窄まりの細さから、一瞬ハバナ葉の香(しかも高級そうなハバナ)がくゆり出されるが、間もなくニカラグアらしい枯芝が追ってくる。芝は乾いた汗のような臭さと紙一重である。
 最大口径に差し掛かっても、強くはならず、枯芝も深まらず、膨らみも膨らまず、なかなか脳天気で広大な原っぱである。そこで弁当箱からチョコを取り出したような。麦チョコなのか、しかしチョコは薄く、弁当なのだから菓子よりも麦や米のほうが強い。おにぎりの海苔をチョコで代用してしまったようなものである。もっとも米というよりは断然麦だが、あまりにも原っぱである為、日本の私はそれをおにぎりだと思うし、おにぎりに海苔を巻くようにしてパンにチョコを巻くわけにはいかない。架空の妙なこだわりである。それにしても素晴らしい原っぱで、茣蓙を強いて寝転んだかのように草いきれの匂いが安定している。
 通常のVにある、黒人の美しい肢体に映える思わせぶりな銀味は無い。醤油の風味というか、染みた味わいが少しある。その醤油の染みがあるいはチョコを排斥して米に近づけ、挙げ句の果てにはもっとも麦であるにして麦をも遠ざけるのである。この葉巻は麦に一番似ているのに、麦ではない。
 味は足跡だらけの原っぱだったが、葉巻を見ていると突如前人未到のモンブランが現れる。なかなかここまで美しい灰の落ち方と火種の美しさは見られない。ゆっくり吸っていたのにモンブランで、横から見ると鋭く、正面から見ると穏やかな形をしている、火種が。実際のモンブランの横の形がどうだか知らないが、兎に角火種がスクエアプレスを維持して見せる。灰が万年筆のキャップをポンと外すかのように真っ赤な火種を綺麗に残して落ちたのである。
 中盤に入ると典型というか典雅というか、花とカスタードが僅かに漂う。実に良く出来ていて、モデルさんが服を着こなすぐらい安定しているのだが、そのモデルさんはまさに高級なのだが、服がどうも三文会社の物のようだ。三文オペラというか、まさに三文字の店のスーツ。
 お前、馬鹿だろう。何で突然スーツなんだ。失笑してしまうね。大体あんたはスーツのイロハもわかっとらんだろうに。
 確かに私にはスーツがわかりません。まさか胸ポケットからハンカチが出過ぎていやしないでしょうか? 
 出すぎどころか、ハンケチが引っ込みすぎだというに。
 幾分安いスーツなので、安いからハンカチも引っ込み思案なのですね。
 ケチというんだ。しかしなんでスーツなんだ。
 こっちが知りたいもんですよ。なんでスーツを着て原っぱでネコロバニャならんのです?
 スーツはまだいい、ネコはいけない。
 ネコの味はしませんがね、でも、地があればでんぐり返しを打たねばならんでしょうに。むろんスーツの味もしませんや。
 じゃ私は消えるよ。じゃあね。
 一度目はモンブランが現れ、二度目は湖だった。波の一つもない、でんぐり返しの打てない早朝の湖。なんで火種なんかにいちいち景色を見てしまうのだろう。葉巻が不味いからだろうか。火種サイズのみみっちい景色なんか銅版画でも見られない。でも昔からみみっちい絵が好きだった。コピー機にしても縮小印刷機能ばかりに興味があった。
 尊大なみみっちさだな。
 リカット。
 最初に細く切っていた為、段々吸い込みが悪くなってきていた。吸い込みが素直になり、溜まっていた雑味が一度堰を切って噴出する。経験上それをやり過ごせる雑味だと知っていた。こうして玄人感に浸るが早いか、茨の土石流は確かに鎮まり、原っぱの緩やかな底にある小川が茶色く濁る程度になる。小川沿いには花が咲いている。うすら甘くて、濁った小川を飲み干したいような。なんといってもここは原っぱである。ラッパのマークの原っぱなのである。
 連歌の雅もなく、語感のみに突き動かされ、私はたちどころに嘯くように正露丸を欲した。しかし何も下るところは無く、だからこその陽気な正露丸であった。するとやって来たのであった。最終盤という、まさに最終盤そのものの風味でありながら、しかしかえって軽やかさ加わり、最終盤らしくない、とどのつまり変な刺激がやって来た。
 そのようでした、原っぱの上であるにもかかわらず、この上なく立派な紙巻煙草を吸っていたのでした。五十センチもの長さがある紙巻煙草で、嫌というほど堪能しました。その紙巻煙草が二十五センチで前触れもなく折れると、優しいクリームが香るではありませんか。しかもまたマッターホルンがほんわかと聳えているではありませんか。ええ、横から見ると峻厳です。しかもそのホルンの頂上には草が生えているのですよ、まったくただの草が。雑草といっても良いぐらいです、雑草にも花は咲きますでしょう。すると空が土石流なんですね。ああ、モンブランとマッターホルンとを取り違えてしまいました。ええ、喇叭のホルンの所為で。そもそもスクエアプレスを横から見るとモンブランがマッターホルンだといったではありませんか。馬鹿め! 一体馬鹿が誰なんだ。若布がバナナんだ。
 何という軽さだろう、土石流の不安のように空が茶色いというのに。茶色いというほど空は茶色くないのかもしれない。私は空よりも重い。空よりも重いという事だけが尊厳である! そうだよ、ケムリというのはこういう物だよ。ケムリというのは少しだけ頭がおかしいものなんだ。

 一口目が一番美味しかった、たとえそうだとしても、無理に期待させるところもなく、したがってか、けっして不味くはならなかった。良く出来た葉巻だと思うのだが、群を抜く香味には依然欠ける。期待させはしないが、安定感では群を抜いている気がする。当り外れなく、メラニオの全てがこのような物なのではないかと思う。
 少し関係がある気がするのだが、『カラマーゾフの兄弟』に「百姓なんかに葉巻を振る舞うな」と叫ぶ宿の主人がいる。この葉巻は貴族も羨む百姓用の高級品という感じなのだろうか。
 目の前の事すら見えなくなるケムリなんかにかかずらっていたら遠くなどまるで見えなくなってしまい、『カラマーゾフの兄弟』級のものは少しも書けなくなってしまう。
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