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  源氏物語「葉」
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|6" x 54|NextCigar|$159/10|重量:+2(18.17g)|算出:+5|香味:+4|計11点|



 着火前から甘くスパイシーでコクのある麦料理なのだが、着火するとそれが煙料理だとわかる。料理が匂いで人を誘うのと逆に、匂いが味で人を誘うのか、そもそも匂いの先に何も無い。簡単にいうと「匂いが濃い」ということだが。……
 今日はヒガンテスが本領を発揮している。もうすぐお彼岸だからだろう。
 嗅いだ記憶のない香辛料の複雑なフレーバーと(記憶を辿るために単一の香辛料をも複雑と言わざるをえない)、同じく産地不明の麦と、その麦のライス感覚(主食感覚)に加えて何かカレーやハヤシやビーフシチューのルーめいた質感、エキゾチックでエスニカンながら日本の洋食屋のコクにも落ち着いていて、隠し味が多すぎるというか、全部が隠し味だから何も隠れていないというか、頭隠して尻隠さずどころか、頭が二つあるのかな。
 はちみつは隠れている。甘さの正体はきっとはちみつであろう? 葉巻にはちみつを使うわけもないが、はちみつそっくりの成分が実際に醸成されているだろう? 調べさせればわかることだ。それにしてもなんて軽やかな甘さなのだろう、和三盆のようだから、はちみつではないかもしれない。とそのとき金木犀がほころび始めていたことを知るのである。金木犀の所為ではちみつが和三盆に化ける。秋の彼岸なのか。春なのに秋で、この秋がまた春のような柔らかさ。やはり頭がふたついるようだ。
 隣で妻が七転八倒して七転び八起きしている。彼女はいつもそんなだから気にはしないのだが、もしやこれは妻が巻いた物なのかという気がしてきた。
 エキゾを洗い、シチューから春の和菓子の嗜みへ。
 金木犀が太くなると、これは葉巻以外の何物でもないという物になる。これまでは葉巻としても異例の美味だった。この太い幹がまた凄い。日本一の金木犀がココに立っていて、「ヨ! ニッポンイチ」という幻聴が聞こえる。みんなが幹の周りで阿呆みたいに見上げている。匂いがポタポタと雫のように垂れてくる。この金木犀の大樹は阿呆みたいに泣いているのだ。日は深夜になっている、だから本当は幹の周りには誰も居やしないのだ。この幻の幹を知らせるべく書いている。和菓子が消えて、この樹皮の厚みがスパイスだとわかる。涙とともに重々しく剥がれ落ちてきて、それが軽い。
 ココに大吟醸酒のそこはかとなく丸い甘味を加える。花見酒なのだろうか。樹皮見酒である。涙が酒杯に落ちて、しみじみと木犀が香る。明るいようで暗い、重いようで軽い、春と秋が習合して、渦も巻かずに平然として美味しい。妻が咳をしながらメビウスの輪じみた体操をしている。遠い部屋でやれば良いものを、この部屋を突き抜ける大樹を見学に来ているのだろう。
 ……あとはココまでの風味が葉巻らしさ烟草らしさ煙らしさに揉まれる。
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|TEO JUL 17|4.88 x 50|cigarOne|$89/10|重量:0(--g)|算出:+6|香味:+4|計10点|

 

 最後の一本、最後の3センチでポポー現る。ポポーというのは食べたことがないので、空想の果実の一つで、樹氷が凍てつく樹林に、なんの木とも言わず寄生するようにごく稀に実ってーーたいていは一つ見つけても二つは見つからないそうーーその果実のみ氷に覆われておらず、果実自体が若干熱を持つという報告がされている。三十メートルもの高枝鋏でもぎ取って齧ると、なんとも暖かい食感がして前歯がするりと通り、ハバナ葉のロメオ葉にも似た熟成の風味が白雪のようにそこはかとなく暗闇を支配すると、ほとんど同時に、これも薄らとミルクらしき味わいがなんとも優しく膨らむ、文字通り口蓋の雪洞に火が灯ったかのように「ポゥ」っと。そのまろやかな味わいは、ピスタチオ等の種子類と言うよりも、バナナ等の方が近いようであり、果物屋の果物を丸ごと煮詰めたような、大吟醸の酒粕も幽かに近くを浮遊して、それでいて一体化した、というより、そもそも「一体の何か」である。要するにポポーである。
|—|153mm x 53|montefortuna|€25/1|重量:+1(16.79g)|算出:+2|香味:+3|計6点|

     

森をほとんど焼き終わったところに覚めるのかと思っていた。一面焼け果てた森に、荒く燠が星のように遍満したところに初めから転がって。ところがコクのある焼き炭を口中に放り込まれて覚めた。懐かしい味わい、幸福な炭の味わい。懐かしさの出所はすぐにわかった。白い光が横切り思い出を二つ裂きにする。これも懐かしい白い光は、往復し、八つ裂きにし、反復の膂力で川を遡行して爽やかな上流へ行く。病的に付かず離れず、後をつけることになって、距離が保ち難くなり、ふわりと上り詰めて花の咲く高原が広がる。開花を幻とする、味気ない絶壁の少し奥、滝壺の真上を浮いてたわめるものもなく落下しつつあった。全く残念なことだ。こんなふうに落下しても、魚だったら死なないのだろうか。滝は階段一段分ぐらいの死なない滝で、旅は矮小化されつつある。空中にて空中の部外者である矮小なパイナップルが口に入ると、以上の行程を繰り返すような気がしていた。気づいた時には繰り返していない。身が軽く浮いていて、燠の焦げた匂いが荒く充満する、最初以前の場面に戻りたい気がしていた。代わりに軽く焦げた茶色の面持ちと追い越さんばかりの緩慢さで高原らしき楽園が下降してくるのであった。いまいち振るわない天国、流石の下降、ふやけた天国を足場に蹴って少し上昇する気がしてきた。耳には夜中にしか弾けないような変なピアノの曲が響いていた。
|—|165mm x 55|montefortuna|€30/1|重量:+2(18.31g)|算出:+4|香味:+4|計10点|

 先日49,53の試食を終え、今日の55でひとまず締めくくり。今日の結果でどれを一箱買うか決めたい。

 55(レイエンダ)のみ端からモンテ香がくゆり来る。すぐに甘さが乗りすぐに強さが出てくるも荒さもまったりして強すぎず、白餡を包んだようなふくよかな茶色い葉の香り。リネア1935なる特別製ゆえの特別味という表情より、普通に美味しい葉巻によくある普通に美味しい味わいで、かえってこのような葉巻を思い出せない。
 エスペシャルやNo.シリーズなどの重厚タイプのモンテを軽やかにした感覚だからか、それら重厚なモンテには符合しないし、ダブルエドムンドを究極まで重く凝縮したものにしては唯物論的に太い。
 花五月蝿いか、金木犀が出始めるとキャラメルキャラクターも強まる。嬉しい叫びで、経験上、花が出ると豆類は減退してしまうはずなのだが、このキャラメルは奇跡的に負けない。
 面白さは49,53に劣るものの美味しさは55が圧倒している。極めて濃密なのにふわりとして、激しいのに優しい。変化率は目がチカチカするぐらいながら流麗で、全ての変化において美味しいものばかりを忍ばせ注ぎ込んでくる。ひととき鉄の味などが出ても濃厚な旨味の一面に過ぎず春菊には至らない。キャラメルコーティングされた鉄、鉄キャラメル。茶色い風味が占めているが、緑色が美味しく差さないわけでもない。
 これだけ美味しいと飲み物を選ばず、あっという間に黒ビールで通し終えた。

 コイーバ全般とBHK56の関係、モンテ全般とリネア55の関係、この二つは似ている。BHKなら中間の54を選ぶのだが、中間のリネア53は一本不発に終って、不発を引きずるつもりなのか、49と55のどちらを箱で買うか悩ましいところ。特殊な荒さと熟成の妙を試すなら49、ひたすら美味しいモンテクリストが欲しいなら55。いずれもすごそうな葉巻だから、大きい方が嬉しいとか、安い方が良いとか、あまり考えず、香味のみで勝負させたい。どちらがより多くの一瞬を喰らわしてくれるのか。(両方買えばいいだろ)

備考
 あんまり美味しいので、つい吸い込みすぎて、一度目の灰を落とすと火種が真っ赤なマッターホルンになっていた。凹は不味くても凸突は不味くならない。
 「灰を落とさない方が良い」という葉巻をたしなまない人でも知る話があるけれど、その一番の効能は『火種を大きく保つ事』にある気がする。空気に晒された裸の火種はすぐに燃え尽きて灰化してしまう為、灰で蓋をして、灰化速度を抑える。結果として美味しい火種の大きさを長く持続させてクールスモーキングに至るのではないかと。
 灰を落とした直後に美味しく感じることもよくあるし、十分に検証したわけでもありませんが。
|—|153mm x 53|montefortuna|€25/1|重量:+1(16.73g)|算出:+2|香味:+3|計6点|

 傾向はデュマスと同じ。こちらは若干ドロー難あり、燃焼不良なのかいまいち味がはっきりしない。
 終盤は滑らかに練り上げた土料理に、もやし。強烈な焚火、火事を恐れぬ農家の焚火。現に葉を燃しているのだから当然ではあるけれど、こうも煙を顔に浴びる機会はあまりなく、他の葉巻よりも農家の焚火に香りも似ている。あの農家なのだが、何を栽培する農家なのだろう。人参だったような。
 葉巻が大きいため、終盤のつもりがまだ中盤で、または終盤が二倍ある。味の変化からすると、終盤だけが二倍に伸びると言った方が的を射ていると思う。序盤、中盤、終盤、最終盤、この4段階で、三等分はできない。土の風味は長持ちしなく、ところどころ気の抜けたままだらだら終る。

 おつまみにアーモンドミルクチョコ(粒入りではない物)を用意したら一気に風味が引き立った。チョコが溶け去ると元の荒くれに戻り、またチョコをつまむと風味が引き立つので、ミルクめいたチョコが必携品と思われる。不思議なことにチョコの後味がある限りは成りを潜めていた金木犀まで咲き戻っている。チョコのコーティングによって荒さに防御態勢を取る必要がなくなるから煙をふんだんに味わえるのかな。飲み物も刺激物はよしてカフェオレやココアが良いっぽい。
|5.5” x 55|NextCigar|$740/10|重量:+2(20.68g)|算出:+1|香味:+3|計6点|

 三が日の葉巻、二本目。

 前回の青ロイヤルロブストより2.5gほど重い。

 〜序盤中盤略〜

 灰を二度落とした後ーーもはや終盤ーー風味が激する。香味は変わっていないのだが、何が変わったのだろう。強さと荒さが加わりはしたが、この葉巻特有の苦手な香味をそのままに何故かまるで美味しいものに変貌している。ただこれもほんの一時のもの、結局前回の酷い衰退を髣髴とさせる。
 〜略返〜序盤中盤にて、葉というか木材の高級さはわかるものの、エスキシートス方向のそそる風味をも纏いながらも、かつてアニベルサリオに感じたえぐみが常にあり、どこか嫌気が常に差している。人を寂しくさせるような、オレンジ色の光が常に差している。好みに合わないということなのだろうか。
 ダビドフの他の銘柄がこれより美しいかというと、やはりオロブランコ(未知)か白ロイヤルにしか負けないかもしれない。ただ青ロイヤルにはひたすら面白みが欠けて、錆を磨いて光る錆のごとき感覚がつらく、このままでは、他の面白みのある愉しげなダビドフたちがこれをイナしてしまうかもしれない。
 年末セールでは444ドルで売っていた。NextCigarは価格が目茶苦茶なので買うタイミングが難しい。
|—|130mm x 49|montefortuna|€20/1|重量:0(11.39g)|算出:+5|香味:+4|計9点|

 〈モンテフォルチュナ〉という怪しげな店で買う。ツイッターでフォローされて知るのだが、葉巻について呟いた覚えがない。店舗サイトの日本語は機械の訳文そのままで、これも怪しい。この店に関する日本語の情報も出回っていない。ただ、英語の情報も少ないながら内容は悪くなさそうだし、商品は適正であろう価格だし、垂涎こそ危険ながらなによりモンテクリストのリネアを置いているし、心配ない店だと判断した。
 後日、好みの梱包で無事送られて来る。
 リネア三種一本ずつ計三本で75€(約1万円)、2セット買う。20€+25€+30€で計算。

 2日午前2時頃着火
 序盤荒くも即刻煎りたてナッツを渋皮ごとながら頬張り、乾藁などのつまらない風味を圧し潰す。抜群の焼きの香ばしさに、芋栗の類の食感も即刻ふんだんに膨らみ、少し花が添う。花はふつう出れば出たで主張が強すぎて煩くもなりそうなところ、花でない何かに感じられていて、香味全体として「ツチノコの大判焼」とでもいうなんとでもいう‘単一のもの’の紐帯となっていた。全てを『弁当』ならぬ一塊に結ぶ紐が花だったのである。花を花と気づいたのは咲いて5分も経てからで。花が木犀に接近して次第に蜂蜜そのもののように甘く濃くなっても紐のまま、はちきれそうになりながら、ひたすら濃密さを膨らますばかり、花に負けじとする香味強く、ものは「膨らむほどに重くなる綿菓子の幻」を安定させている。幻が安定するとはどういう了見だろう。元旦からツチノコを捕まえた正夢を見ている。
 ふむふむと安寧に納得しているところへ草が広がりくると、さっと土も隠見し、さらに加わる極上焙煎の焦風味があからさまに土を晒す。肥沃なコクで、ものは黒土で育つ。終盤の雑味に至りそうな要素がいつまでも雑にならないまま練りこまれている。
 根元の根元まで美味しく啜ったのに香味点+4に落ちつけた。現時点での荒さが引っかかるのかもしれない。そわそわして美味しさに置いてけぼりにされたような気もしつつ、どちらがそわそわしているのか、葉巻の方にも落ち着きのない荒さを感じた。荒くてもずっと美味しいものではあって、本気モードのハバナ感は充溢しているし、濃厚さが貫徹して息をつく暇もない。従来のモンテ風味の有無について、それが濃過ぎて逆に分からなくなりそうで、ある部分では濃くなって、ある部分では消えている。消えているのは青緑色の芳香だった。
 非常に豊かで強くて荒くて滑らかな濃い煙だから、寂しさの要素がまるで無いが、秋の焚火を大いに感じさせるところは強烈に寒くて寂しい。寒さは真冬深夜に窓を開けっぴろげて煙を排出しているからかもしれない。下半身を電気毛布に包めば寒さはほぼ感じないのだが、ワインセラーの温度がどうしても下がってしまう。

ーー
正月なので酒類はなかなかなかなか豪華で、これによりこちら側のそわそわ感も増す。

『五橋 極味伝心』(清酒・純米大吟醸)
葉巻にやられて死亡。酒質が繊細すぎ、葉巻を高めているとも思えない。苦味が少し強く残る水。パイナップル香も弱めなのでトリニダッドにも合わないと思う。おせちに合わせて止めるべき。

『マルク・コラン サントーバン1級』(ワイン白)
葉巻にやられて死亡。こちらも繊細すぎる。葉巻を消した途端美味しさが蘇り、着火前より美味しくなる。ワインが開いたわけではなく、紫煙の分厚い雲が一気に晴れた時の輝きが眩しい。葉巻のほうも高まらないが、喉を潤す液体の効果はある。晴れた途端、嫋嫋たる酸味とまろやかさが液体に静かに漲る。たいそうなワインではないものの、五橋の最高峰と似た価格で、それと並べていたからか、高貴な米でも入っているのではないかと疑わせる透明感を湛える。抜栓直後はどことなく甘ったるくていやなワインだったが、今はそれを感じない。

『シャトー・ディケム 2009』(貴腐ワイン)
葉巻にやられて半死。黄金は綿になっても飛ばないはず。その黄金が飛んでしまう軽さと重たさ、その低い浮遊の趣が死んでしまったが、甘さは生きて葉巻のほうは一方的に高まったかもしれない。
(貴腐ワインにありがちな杏が濃過ぎず、あんずの後に、焦がした糖蜜が素早くよぎる。素早さを酒の若さと思う。重厚な灯油も極力軽快で、ほんの一滴のマスカットとほんの一滴の桃のまろやかさを静音で奏で、マスカットをも拒絶する葡萄感が奇跡的に滞留して、葡萄というしかない比喩を絶する高ぶりがある。余韻はなるほど永遠で、実際にエキスを口腔の隅々に残しながら、浮遊感が忘れがたく歯磨き後にも浮く。)
一生に一度は味わってみたいと思い、一生に一度のものとして納得できない味ではなかったが、一生に二度となれば、もう要らないとは思う。なのに1988と2001を保管中の身は、古いものを味わうよりもまず、若いディケムを知りたかったのであります。

リネアに合わせる飲物は難しい気がした。赤ワインが欲しいような気もしたし、コーヒーに合う葉巻だとも思う。
|—|3.62 x 22|Atlantic Cigar|$62.70/20|重量:−2(--g)|算出:+7|香味:+4|好み:+1|計10点|

 これについて何か色々な粉の名を挙げられる人が居る気もするのだが--思い付こう閃こうと思ってかれこれ40本ぐらいを消費しつつ結局自分では比喩なき葉巻だったのだが--大雑把且つすっきり纏め上げる一言を思いついたのでここにメモを至します。初めてエールビールを呑んだ時に感じた香気に近い、私はこう申したのであります、今、きゃー恥ずかしい。もう一度申しましょう、きゃー恥ずかしい。ももう一度申しましょう、初めてエールビールを呑んだ時に感じた香気に近い、今、きゃー恥ずかしい。キューバ物はピルスナービールであるというようなことになってしまいます。そうでなくてもです。当然かどうか、エールビールに合うのか、そんなビールを今呑んでいるから恥ずかしいのか、恥ずかしいから美味しいのか、とにかく今美味しいです。ビールで言えば酒母感も忘れておらず、葉巻の葉巻らしい風味が底からか上からかしっかり漂ってくる。上下に挟まれて呑み込まれそうなのだが、そこは小さい葉巻だから、するりとこちらの体が抜け出す。狭隘過ぎて入り込めないのかもしれない。一所懸命に鉄格子に頭を押し付けている、そういう無理な間隔が笑えもし悔しくもあるのです。それにしても小さい珍味のようで、ひたすら美味しい。
 もしかしたら、10本缶入よりも20本木箱入のこちらの方が美味しいのかもしれないのでお気をつけ下さい。
 ジップロックにボベダみたいな69%の調湿パックを入れていたが、下段10本を画す杉シートを捲ると芥子粒大の黴が2粒ばかり栄えていた、冬に。冬でも窓を開けてばかりなので、この部屋の気温は低めです。残9本。良いお年を。
|RAG ABR 18|5 1/4 x 44|cigarOne|¥24190/24|重量:−1(9.62g)|算出:+6|香味:+4|好み:+1|計10点|

 到着日に開封し一服する。
 最初の一口で感動が来た。懐かしいような、不味いようなーー今では不味くないのだがーー初期に色々な葉巻の一口目で感じていた恐れおののかせる緊迫の味わいがある。パイナップルを食べる時にも似た緊張が漲る。パイナップルの日々から随分経って、今更それを感じるのだから、人を脅すパイナップル頭の香味成分がここに極大化しているのではないかと疑う。そのまま三口ばかり進むともう、ちょっと異常なぐらい味が濃い。パイナップル頭は味の濃さの布石として恐れられたのか、たしかにあの頃、あれは空脅しで、三口ですんなり葉巻の軽やかな風味に移行したものだ。これは脅しから空想される香味のまま移行し、現実に変じて重く垂れ下がり、しかし恐れのみを減じさせ、けっして醤油にはならないような、香ばしく煎られ醗酵させられ煮詰められた豆満帆の味わい、そこに激しい辛味を伴う。
 これまでコロニアレスはほぼ経験がなかった。二箱ほど買ったことがあるレイジェスも序盤は辛味が目立ったから、辛味についてはトリニダッドの小品の特徴なのかもしれない。コロニアレスはそこにレイジェスではあり得ない巨大な旨味を伴い、どちらかというとトリニダッドよりも一番濃い時のコイーバを思い出す、それでもそこはかとなくトリニダッドらしい杉の風も漂うという、トリニダッドがコイーバに近接するのはこれまでも時折経験したことである。
 2センチも進むと急に穏やかな春が訪れて、春の嵐の気配だになくなってしまう。辛味を置いて豆だけは間もなく戻り来る。
 軽やかに甘いカスタードが葉巻洞窟の芯を通る。全体が異様に濃いので、カスタードの軽さに物足りなさは感じず、蕾よりは開いていた花を抑えてカスタードが通ったことに再度感動を覚える。
 ここから花も負けない。はっきりほころび始めると一緒に緑の茎の匂いが刺さる。この辺りは、花、カスタード、緑、豆、四種のマーブル調で、配合の割合が不規則に変動する。乳幼児の息の匂いなども加わる。緑色の茎は蜂蜜を連想させる要素となる。
 強烈に甘い花が来る。この扱い易いような小柄な体躯から、こうも美事な満開に至るとは、壮観への夢がひょいと結実してしまい、これはなんという名の花なのだろうかと覚束ない不思議な気分になるのである。菜の花、オリーブ、アブラナ、若干油っけがあるようである。爽やかな油。それでも葉巻の煙は金木犀が一番近い。その金木犀にしても夜の感じは催さずに、昼にバニラの風が優しく吹いている。豆っぽさも失わないが、胡麻っぽさはない。植物の純粋な香味に詳しい人はなにを抽出するのだろう。ふと、エンジンオイルのような風味が感じられているのではないかと思いつく。最初の一口は、実はやや古びたエンジンオイルだったのではないか。
 豆が再度濃くなり、とともに嫌味のまるでない爽やかな揮発性を発揮する。普通、揮発性というと木のえぐみを伴うところ、ほとんどミントのような効能を示す。上等の蒸留酒や白ワインから香る青林檎のエステル香かもしれない。こってりしつつ、こってりしたものがこってりしたものを自家洗浄するような。ショートケーキに於ける苺の効能(最近ではショートケーキに於けるシャインマスカットの効能)とは少し違って、スポンジとクリームとフルーツはぐちゃぐちゃに混ぜこねられている。だいたい、ショートケーキのみには収まらず、このデザートというもの、ここでは端から砂糖を除外した、破廉恥なほど繊細微妙なデザートらしからぬミルフィーユで、菓子とも言えず、食事とも言えず、その中間を浮遊している、それらすべて花の下。明らかに吉野の桜ではないけれど、この変な花を咲かせる吉野のような山ならぬ峡が外国のどこかにはあるのではないかと見える。
 終盤は全て落ち着いて、雑味も無く、うまいうまいうまいと心で連呼する。ちょうど良い薄味に変って、うまいうまいうまいと連呼する。濃い方がうまいに違いないのに、薄味がなぜかうまいのである。うすめ液になにか妙な液を使ったに違いない。……
 ハバナ慣れし過ぎていたところ、珍しい瀟洒な豪壮味で、刻々とする変化に久しぶりに集中させられ、めくるめき、小品であることから火の進みも早く何か切実な思いを催した。
 ただ、この一本にしても、これまでの全てのトリニダッドからも、モンテクリストのような色気はあまり感じられない。と思った矢先、煙を吸うと、生気を吸われた。序盤中盤終盤をはや思い出に変えてはや懐かしませつつ懐かしみに終らない、ミントとカスタードの残香の美かと思う。
 最後の一口でサンドペーパーで傷ついた豆の素朴な風味が現れてそそり、最後の一口だったが一口が十口に膨らんで、延焼して指の火傷まで至る。金木犀の残香まで溌剌と加わり、もうそろそろ夜になり、静かにめくるめいて美味しい。いい加減もう終るはずなのだが、まだ終らない。最後の最後の最後にはなんと炊きたての米の旨味が加わる。こうなると、私は反省する者のようにもなって、過小評価を覆したくなり、モンテクリストの青みがかった色気に近しい色気が米櫃の前からあったようだった。モンテクリストではない色気にこそ、より不思議さが増す。米に青い色気が纏い付き、食品に青色は頂けないのだが、これはもう美味しい。色気とはそもそも気持ち悪いもの。
 昔から「トリニダッドは大吟醸に合う」と言っていたのはもしや米が起因だったのか、でもこのコロニアレスに限り大吟醸の味わいを殺すかもしれない。

……

 到着日開封の成功例だった。最近評価が甘く香味点+5を連発していた気がするので、+4にとどめてしまったけれど、直近で+5を与えたダビドフゴルフよりもずっと好き(ただゴルフの花のインパクトには物凄いものがある)。こういう場合のために好み点というものを設けていたらしい。
 うむ、2018年4月の製造で、製造から7ヶ月しか経っていない。「フレッシュロールまたは最低一年寝かせろ(三年?)」という葉巻神話は此処に崩れる。ラ・トローバ(同一工場製)も同様に若くて既に美味しかった。到着日の暴れん坊なので今後どこかへ落ち着いてしまうとは思う。
 この葉巻は飽きにくいものでもあるかと思う。常備品の最有力候補にして、実際に常備してしまったらどうなるかと考えてみる。他の葉巻を不味く感じてしまうということにはまづならない。この葉巻に飽きるということには多少なると思う。それは残念で、やはり常備品はパルタガス・ペテコロエスが一番安全な気がする、飽きたけれど。パルタガス・ショーツ50入がずっと気になっているけれど、小さいくせに割高だし、美味しいとしても小さ過ぎて吸うたびに物足りなさが残りそう。コロニアレスのサイズこそ万能たるべき常備品に最適という結論に至りそう。
|5" x 50/61|Atlantic Cigar|$17.58|重量:+1(15.12g)|算出:+5|香味:+4|計10点|

 重量が前回と0.02gしか変らない。
 着火前のこと、チョコめいたローストコーヒーの香りがする、かなりの深煎り。意外に珍しいことなので、遥か彼方の記憶ーー葉巻を始めるか始めないかの時、葉巻にちょっかいを出していた頃のーー銘柄すら忘れたあの葉巻を思い出す。あの時、黒い棒を握って暖をとっていた、葉巻の効能とはホカロン程度のものだった。それでも黒珈琲の苦味にある甘さが香っていた。

 着火後はとくにそういう味はしない。むしろ抽出に失敗した雑味珈琲に近い。じっと待つ夜明けのように、だんだん爽やかな緑が見えてくる。
 もしかしたらだが、昆布の旨みがあるのかもしれない。風味と甘さ。焼き昆布という聞き覚えのない品物なのだろうか。
 あとは花が咲き咲きしたり、満開には至らなかったり、お馴染みの変化を経て少しガーデニングの心地がする。

 特筆すべきはまんま葉の黒さで、見たまんまの味がするのだが、まんまというのが曲者で、黒い葉には醤油じみた熟成味があるものの、フィラーの配合からか、黒い化粧葉そのものからか、まんま黒ばかりの味が犇めいているわけではないまんまという事である。どの銘柄の黒い葉巻でもいつもそうなのである。一度純黒の葉巻を試してみたいものである。
 それにしても、この葉巻はなかなかしっかり黒い。前回は到着日早々で味が狂っていたかもしれないが、落ち着いて(いつものダビドフっぽさが増して)、よく出来た葉巻のように華やかに普通に変化して、そこへ高そうな黒い葉を片時も手放さず羽織っている。
 昆布醤油というと薄口になるが、この昆布醤油は淡い恋のように濃い(恋といふものは淡ければ淡いほど濃いらしいです。淡い恋など知りませんが。)。終盤の金木犀などついには見事満開で、そのとき、緑を覆う夜になる。金木犀は夜に匂うような気がするからか、夜を同時に運んできてくれる。そもそも夜に燻らせているから、二重の夜なのである。(「二重の夜」というのは「淡い恋」よりもカッコ良い文言だろ? だろ?)
 匂いがしだいにとろけそうに広がりそうなバニラを帯び、と時を同じゅうして雑なコヒ子も蘇るが、とと同時にコヒにミルクを落としたのと同じうほどの激変と調和が観察される。観察者が観察者でなくなるが早いか、そもそも観察者でない、煙が先か、吸い込みが結構悪い事により、観察者が消えない。客観的などという言葉は死んでしまえ、と思う。ほんと。うそ。ほんと。
 なんとなくリピート必至なので、10本ぐらい買って随時愉しみむと良いと思います。ダビドフの黒い顔、ついに現るである。そう簡単に黒い顔は消せず、位置づけとしてはコイーバのマデューロに似る。オスクリオだから魔といっても語呂が悪いが、マデューロの魔が此処オスクリオにこそある。
 最後には草復帰。コイーバを思い出してしまった青果、草は苺ジャムで、蔕がジャムに大量に混入している変な苺ジャムである。となると苺が居るというより焼き立てのパンがここに居るかもしれない。結局朝に戻ってしまって、昨夜は金木犀が綺麗だったなぁと思ったり思わなかったりする。小一時間で丸一日以上生きた心地もぞする。煙ですもの、「シュレーバーが言うように幻が現実にしかならない」というと言い過ぎで、煙はちょうどあちら側へ架かる橋のようなものではあるかもしれない。
 See you on the otherside!

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