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  源氏物語「葉」
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 落ち着いた旨味。旨味といってもそれほど美味しくはない味で、落ち着きすぎているようで元気が無く、バランスも崩れて、老人の弱さと老人の苦みがある。というのが序盤の印象なのだが、何か沸々としていて、若返りそうな気配が少しずつ濃くなってくる。灰が3センチほどになる頃には木を窯で煮出したような味と甘味が十分に出てくる。はじめの味を払拭するには至っていない。甘味はとって付けたような甘さだが、似合っている。いくら吸い馴れていてもきっと煙が甘いというだけで少し意外なのだが。意外だからという変な理由で甘さがより美味しくもなるのだろう。甘さと木の出汁は申し分ないが、やっぱり半分冥土に行っちゃっていて、潤いはあるものの皺が目立ち始めた手にハンドクリームを塗りたくったような誤摩化しに思えてならない。それでも老い始めというまでには騙されているのである。
 これで三度目だが、半分過ぎにまた紛う方なき金木犀が咲いた。こんな報告は聞いたことないがどうしてだろう。異なるビトラで三度目ともなると「モンテクリストといえば金木犀」と言えるほど感動的で、花の季節を待つように確実に待ち遠しいのだが。
 味は金木犀部位を越えると少し濃くなるもののNo.4などに比べて優しく、そんな感懐の中で序盤の苦いような老いは常に続いている。湿っていても枯れている。
 金木犀は二度咲いた。悲しくなりながらよくよく嗅いでみると、木が貴く熟して放った香りのようでもある、木の美味しさも同時に極端に深まるようなのだった。その時には甘さを忘れてしまうぐらい大気に憧れているらしい。老いが醸す香気だと替え難くなるが、若返る代わりに咲いたのでなく、もし老いだけを交換できればとんでもない美味しさだと思う。そもそも老いといっているものが老いなのか自信がないのだが。満開は二度きりで、三分咲きは四度ぐらいある。近所の桜は七分咲きだった。桜の足りないところを丁度半年早い金木犀で補っている風情が面映い。
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