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|NextCigar|$0/1|arr 2019/9/21|
|—|5.5” x 54|16.87g|香:3.2~3.8 ave3.5|残0|
註:この葉巻は試供品です。封シールに「tasting cigar not for sale」の記述あり。試供品であることから、発売当初に巻かれた可能性が高く、個包装のビニールにやや色が付いています。発売当初の物でなくとも、ビニールの色から三年ぐらいは放置されていたであろう個体に見える。なお、湿度によって着色差があり、過加湿の環境ではビニールが着色されやすいかもしれず、色のみでは正しく判断できない。またもちろん、ラッパーが濃いほど着色も早まる。
10月19日 曇り
雲が地を灰色の絵具で塗り潰したかのような、天地の境が曖昧なほどの曇天で、延々と雨粒一つ落ちないのが不思議なぐらい、人も日がな一日廃人と化していた。灰色は室内にも忍び込み、室内の色も灰色で、風もないのに部屋の空気や温度までもが境を消失して空と融合していた。分厚く頭上付近に落ちてきている雲に遮られた陽が落ちそうであろう頃に融合は度を超して全てを均質化させたようで、前述のように脳も灰化し、ベランダの地べたに転がっても、室内のベッドと変りがなくなる。かねて吹き上がっていた砂埃はぎりぎり乾いている感触であった。
曇天らしい曇天に静かに感動していたわけであるが、陽が落ちると、かえって明るく、灰一色であった目前の空が白と青のコントラストを取り戻して遠のいてしまった。膨大な水蒸気と光との至芸があったこと、それが果てたのだとわかり、目が醒めた。
10月19日 26時過ぎ
着火前の乾いた佃煮の風味が燃焼するとどうなるか、煙に化けるより煙が化けるのか、煙がカムリを謎として隠し煙に巻くのか、序盤はそんな美味しげな話だが、5ミリも燃えると辛味やえぐみや渋みがカミソリを巻き込んだ竜巻のように威風堂々と道無き道を進んで外道に外れて正しい佇まいの味覚嗅覚を事も無げに破壊する。パドロンを崇めるアメリカ人向けのやり方で、横暴極まる暴風にはしかし当然花などもが吸い込まれていると見え、木々は根元付近から目茶苦茶にもぎ取られ棘立って旋回して危ないことこの上ない。まろやかなものなども旋回し始めた。それはちょうど珈琲にクリープをかき混ぜた宣材写真のようであり、思えば珈琲はずいぶん雑味が多くて下手な淹れ方だが回っている。回って誤魔化している。竜巻は端から見れば文字通り竜のようでこの世のものとも思えぬ美しさがあるが、竜の咽喉の中である竜巻内部は実に酷い有様だ。美味しげな物も飲み込んでいるのだが、ほとんど音速で飛び回り、砂嵐ばかりが口を満たす心地がする、それでこの体もけっこうなことに浮いて飛び回っているのだが、体を巧い具合にくねらせたり、口を歪めたりして、今美味しいものばかりを吸い込む術を会得しようと忙しいところである。竜巻游泳も上達しようというところである。竜巻上部の灰色の頭が今ぽろりと首を落とした。首無し竜の勢も弱まってきたのかもしれない、ところで物の理から察するに、風が弱体すれば浮いていた体は一緒くたに落下する手痛い態である。恐る恐る竜巻の首から竜巻の足の方へ目をでんぐり返してみると、なんとも比重のおかしな光景が狭く奥行をもって広がっている。竜巻の下部には、なんと落下しても痛くないかのように、花びらたちが幾千重の饅頭布団でもあるかのように重なって、無数の黄色がほとんどキラキラと輝き、竜の喉たるトンネルを照らす光源じみて明るく満ち満ちているのである。それでもまだ落下するには早いようで、見え隠れする図太い木の棘の上をば避けねば刺さるだろう。それならまだくるくると狂おしく旋回したまま跳ね上げられた上空を転がっていたい気持ちである。そうやって竜巻の中、破れた翼めかせた両腕をそのじつ巧みに操り平泳ぎしていると、花が一層密度高く堆積して来て依然回るままであるからか花がまるで乳化遊びを始めたのだ。竜巻の力と料理の力とは似ているところがあるとわかり始める。竜巻内部にて、竜巻は壮大な料理を繰り広げていたのである。なんたる美食家たること、町を縦横無尽に食べ歩いた上、とうに不要となった舌のある頭部を落とし(頭で食べたのかは不明だが)、長い咽喉の奥処の細き胃袋にて緻密な料理を完成させるとは。「料理は舌で完成する」とはささやかな人間の話に過ぎないのである。竜の食事は胃袋で完成するのである。
落ちてゆく、落ちてゆく、どこまでも落ちてゆきたいのに、なかなか体は胃袋の方へ落ちてゆかない。それとももう落ちているのか。遠目の雲が近くで霧に変るように、近づけば近づくほど堆積は味気なく薄れるもの、この道理なのであろうか。懐かしい地の匂いが近づいている。旋回しながら落ちれば道長く、痛手も無いものだと閃く。上空には金の布団が柔らかく分厚く見えている。胸の谷間めいたヘルメットのように、それが迫り落ちてくる。
最後にはランディングに失敗し痛く尻餅をつき、十五回転半の後、すくりと立ち上がった。崩れた竜巻が頭の直ぐ上を燻したウイスキーのように只管スモーキーに漂っている。旨味と甘味を削いだ滑らかな燻煙である。
|—|5.5” x 54|16.87g|香:3.2~3.8 ave3.5|残0|
註:この葉巻は試供品です。封シールに「tasting cigar not for sale」の記述あり。試供品であることから、発売当初に巻かれた可能性が高く、個包装のビニールにやや色が付いています。発売当初の物でなくとも、ビニールの色から三年ぐらいは放置されていたであろう個体に見える。なお、湿度によって着色差があり、過加湿の環境ではビニールが着色されやすいかもしれず、色のみでは正しく判断できない。またもちろん、ラッパーが濃いほど着色も早まる。
10月19日 曇り
雲が地を灰色の絵具で塗り潰したかのような、天地の境が曖昧なほどの曇天で、延々と雨粒一つ落ちないのが不思議なぐらい、人も日がな一日廃人と化していた。灰色は室内にも忍び込み、室内の色も灰色で、風もないのに部屋の空気や温度までもが境を消失して空と融合していた。分厚く頭上付近に落ちてきている雲に遮られた陽が落ちそうであろう頃に融合は度を超して全てを均質化させたようで、前述のように脳も灰化し、ベランダの地べたに転がっても、室内のベッドと変りがなくなる。かねて吹き上がっていた砂埃はぎりぎり乾いている感触であった。
曇天らしい曇天に静かに感動していたわけであるが、陽が落ちると、かえって明るく、灰一色であった目前の空が白と青のコントラストを取り戻して遠のいてしまった。膨大な水蒸気と光との至芸があったこと、それが果てたのだとわかり、目が醒めた。
10月19日 26時過ぎ
着火前の乾いた佃煮の風味が燃焼するとどうなるか、煙に化けるより煙が化けるのか、煙がカムリを謎として隠し煙に巻くのか、序盤はそんな美味しげな話だが、5ミリも燃えると辛味やえぐみや渋みがカミソリを巻き込んだ竜巻のように威風堂々と道無き道を進んで外道に外れて正しい佇まいの味覚嗅覚を事も無げに破壊する。パドロンを崇めるアメリカ人向けのやり方で、横暴極まる暴風にはしかし当然花などもが吸い込まれていると見え、木々は根元付近から目茶苦茶にもぎ取られ棘立って旋回して危ないことこの上ない。まろやかなものなども旋回し始めた。それはちょうど珈琲にクリープをかき混ぜた宣材写真のようであり、思えば珈琲はずいぶん雑味が多くて下手な淹れ方だが回っている。回って誤魔化している。竜巻は端から見れば文字通り竜のようでこの世のものとも思えぬ美しさがあるが、竜の咽喉の中である竜巻内部は実に酷い有様だ。美味しげな物も飲み込んでいるのだが、ほとんど音速で飛び回り、砂嵐ばかりが口を満たす心地がする、それでこの体もけっこうなことに浮いて飛び回っているのだが、体を巧い具合にくねらせたり、口を歪めたりして、今美味しいものばかりを吸い込む術を会得しようと忙しいところである。竜巻游泳も上達しようというところである。竜巻上部の灰色の頭が今ぽろりと首を落とした。首無し竜の勢も弱まってきたのかもしれない、ところで物の理から察するに、風が弱体すれば浮いていた体は一緒くたに落下する手痛い態である。恐る恐る竜巻の首から竜巻の足の方へ目をでんぐり返してみると、なんとも比重のおかしな光景が狭く奥行をもって広がっている。竜巻の下部には、なんと落下しても痛くないかのように、花びらたちが幾千重の饅頭布団でもあるかのように重なって、無数の黄色がほとんどキラキラと輝き、竜の喉たるトンネルを照らす光源じみて明るく満ち満ちているのである。それでもまだ落下するには早いようで、見え隠れする図太い木の棘の上をば避けねば刺さるだろう。それならまだくるくると狂おしく旋回したまま跳ね上げられた上空を転がっていたい気持ちである。そうやって竜巻の中、破れた翼めかせた両腕をそのじつ巧みに操り平泳ぎしていると、花が一層密度高く堆積して来て依然回るままであるからか花がまるで乳化遊びを始めたのだ。竜巻の力と料理の力とは似ているところがあるとわかり始める。竜巻内部にて、竜巻は壮大な料理を繰り広げていたのである。なんたる美食家たること、町を縦横無尽に食べ歩いた上、とうに不要となった舌のある頭部を落とし(頭で食べたのかは不明だが)、長い咽喉の奥処の細き胃袋にて緻密な料理を完成させるとは。「料理は舌で完成する」とはささやかな人間の話に過ぎないのである。竜の食事は胃袋で完成するのである。
落ちてゆく、落ちてゆく、どこまでも落ちてゆきたいのに、なかなか体は胃袋の方へ落ちてゆかない。それとももう落ちているのか。遠目の雲が近くで霧に変るように、近づけば近づくほど堆積は味気なく薄れるもの、この道理なのであろうか。懐かしい地の匂いが近づいている。旋回しながら落ちれば道長く、痛手も無いものだと閃く。上空には金の布団が柔らかく分厚く見えている。胸の谷間めいたヘルメットのように、それが迫り落ちてくる。
最後にはランディングに失敗し痛く尻餅をつき、十五回転半の後、すくりと立ち上がった。崩れた竜巻が頭の直ぐ上を燻したウイスキーのように只管スモーキーに漂っている。旨味と甘味を削いだ滑らかな燻煙である。
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