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  源氏物語「葉」
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|NextCigar|$0/1|arr 2019/9/21|
|—|6” x 50|17.74g|香:3.3~4.3 ave3.9|残0|

 註:前回に続き、この葉巻は試供品です。「tasting cigar not for sale」と書かれた封シールあり。

 2011年の元旦にダビドフ・アニベルサリオ No.3の記録がある。妙な木に鈍重な黄色い金色を感じ、あまり好きになれなかったことを憶えている。元旦の空気が晴れやかでなくなり、正午の白い陽がはやくも黄色に見えたのは葉巻の所為である。
 さらに、先日の「バター」は過去を探るとアニベルサリオでなく「Special Short Perfecto」が正解だった。エントレアクトも購入した記憶があるのに、記録は欠落している。他銘柄の葉巻レビューでエントレアクトを引き合いに出すようなところがある()のでたぶん記憶違いではないような。

 着火すると今日もまた、過去に感じた木の感覚が蘇ってくる。脳髄をつまらない気分にさせる。ただ、あの日ほどの重たるさはない。
 松茸というよりトリュフに近い、黒黴にも似た風味が整ってくる。微かな甘さが乗ると黒黴は消えて松茸寄りになる。と、子供の口臭が一息来る。
 エントレアクトよりもやや荒く、やや軽く、やや不味い。味が半分ぐらい違う。とりわけあの透明な甘露が無いだけでこちらの存在感は木偶の坊のようにがらりと落ちてしまう。不味いどころか、どちらかといえばかなり美味しい部類であるのに。
 えぐみは木ほど強くなく、軽さと膨らみがある。風味はダビドフ典型のものだし、リンゲージの大きさからか花の量はエントレアクトを優に凌ぐ。
 どうもアニベルサリオは赤ワインで生気を得るらしい。日本酒からエントレアクト時にも併せたもの(シャトー・グロリア2013)に変えると二段ほど美味しさが増す。ワインの味が少しわかりにくくなっても葉巻の犠牲として仕方がないのだが、ワインもあまり損じられない。
 と、九年前の記憶、きつい木が呼び覚まされる。金木犀と共に出てくるらしいのだが、金木犀が霞むほどに「日曜日の夕方のサザエさん」そっくりなつまらなさを出している。サザエさん自体は悪の枢軸ではないのだが、悪の巣窟たる学校に行くのが嫌な人は必ず知っているあの感覚である。
 と、異様にクリーミーな何物かが出てくる。正体は花か杏仁に成って飛び立ったのだが(葉巻というものは色々なものが羽を生やして飛ぶ)、幼虫と成虫では性質がまるで違うように、何物かわからない時点では花でも杏仁でもなかった。もっと別の正体をもつクリーミーさだった。クリームそのものという方がまだ当っている。それにしても杏仁金木犀のうまさったらない。正体不明なクリーム感が潜伏しているからかもしれない。それはたとえば、パコデルシア(ギタリスト)のルシア感ではなくパコ感である。生まれて最初に覚えるのがミルクの味だからか、何か異様な親しみと高揚感がある。クリープの粉を舐めるのが好きだったり、高速のインターで売っているミルクケーキ(200円)が好きだったりすることを思い出す。植物にして動物的なものが出たのかもしれない。(この段落では再び日本酒を呑んでいる。)
 試供品の方を美味しくするというのは妙手だと思う。通常品がこれと同じ品質だったら、つまらなさが吹き飛ぶ。つまりは日曜日のサザエさんが嫌いになれないのだ。学校には休みの日に会えなかった(おもしろい顔の)友達がいる気がしてくる。
 なにか、クリームとは違うものも、時々ふっと出てくる。何であるかを捉えきれないままに花や松茸に紛れてしまう。そのふっと来る瞬間が幾たびも麗しい。
 今日の一本にバターという言葉を使っていないが、バター感はあると思う。黴が白黴寄りになり、白黴とバターということであればわかりやすいところでカマンベールチーズを想起する人も多そうである。
 また珍しく、終盤で序盤によくある緑の茎っぽい風味が出る。変化率が高くめくるめき、濃くニコチン酔いさせる性質もあるようであるから、感覚として最終盤の訪れが早い。即物的な長さで言えばまだ終盤に突入したばかり。しからば衰えも早く、終盤早々落ち気味になる。雑味の侵入を少しずつ許しながらなかなか持ちこたえるも、もはや以後甘美とか秀麗というには至らず、雑味がついに堰を切って押し寄せる。
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