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  源氏物語「葉」
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|LAG FEB 11|170mm x 43|coh-hk|$197.20/25|重量:0(11.46g)|算出:+6|香味:+4|

 空吸いしていると、甘さを除いた蜂蜜の香が濃く鼻にくっつく。安い蜂蜜の湿っぽいそれではあるが、安い蜂蜜の湿っぽさと違って葉の湿っぽさに変わっているわけだから心地よい。箱を開けた時も匂いが濃く、兎に角芬々としている。全体的に美味い箱である気がする。
 着火一番でガツンと来る。最近不甲斐無い物ばかりだったから爽快である。褐色というのは雑味になりかねないが、褐色の人のバネを感じる。ところが褐色であれ色白であれ中身には同じ血がカスタードクリームのように流れていて、同じ血が流れていない方が嬉しいのであります。味がカスタードに落ち着いてしまうのが怖い。怖くないはずの成分が怖い。もうカスタードには嫌気がさしている。この葉巻だけはせめて雷鳴のように耳を聾するほど刺激的であってほしい。これがそうでなかったら、どの葉巻にそれを求めうるのでしょう。遠雷になりはしても、有り難い事に、雷が止む事はありませんでした。
 ここでまだ二センチでした。此処で切り上げようかと思いましたが、もしかしたらこれは凄いアタリなのではないかと思いはじめました。
 ですがそのようではありませんでした。どうやら切り上げようかという時が一番思わせぶりだったのです。思わせぶりだったのか、その後に私が何も思わなくなったのか、わかりません。今後私が葉巻を美味しいと感じる事はないのでしょうか。馴れというものはそういうものなのでしょうか。これはこれで間違いなく美味しいというか、8月で一番美味しいのですが。
 まったく鄭重な気分です。鄭重な味わいがあったのかもしれません。ですからこれでまだ半分だったのです。間違えて諦めようとしてしまいました。何度も諦めようとしたのです。
 山椒というか、山椒のようなものを十個も一時に噛んだような強烈な変化が訪れました。わたくしはもう少女のようです。同時に葉の香ばしさや塗り潰された花などが香ります。少女が言っても「ピリ辛」の、雑味ではない、吸い応えをもって。これぞ葉巻の真骨頂であります。まるで花盛りの木蓮の巨木のようです。花盛りなのにそういう地味な味わいです。未だかつて誰が木蓮を一本吸う事ができたでしょう。夏に春を思う。これこそ一番遠い。一番遠くて一番近いのです。しかしなんという地味な花盛りでしょう。桜などはとっくに散っています。なんと長い花でしょう。川端康成は百日紅やハナミズキやコブシを何処にでもある花と云っていました。確かにマンションのぐるりや県道の際などによく植わっています。木蓮はコブシによく似ていますが、木の大きさが違います。木蓮もよく見かけますが、木蓮は公園にしか植わらない大きさです。まったくなんと云う残暑でしょう。木蓮の巨木が満開です。でもなんで少女が葉巻を吹かしているのでしょう。しかも木蓮の渋さをもって。まったくもう、葉巻おじさんの思いどおりにはなりたくないものです。
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