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  源氏物語「葉」
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|6 1/4 x 50|Cigars of Cuba|$97/10|MOS MAY 09|+2|+2|

 けっこうよぼよぼな外観。よぼよぼだけれど熟れたフルーツのように美味しそうに見える。吸い込みが全体的に固かったけれど、大した問題ではなかった。

 十本入りボックスを買って、二年ぐらいかけてじっくり確かめる予定だったのに、もう無くなってしまった。十本を纏めれば「甘い杉」という事になると思う。ほんわかとしたカーペットの温かみを芯にして、カリッとした甘い杉を巻いたような。それから、秋も深まると(6月17日に届いて10月24日に無くしたから秋が深まるのだが)、ロイヤルミルクティーというより、チャイのようなスパイス感がほんのりと香る。もっともミルクティーの味はあまりせず、金木犀が少しミルクティーがかっているぐらい。金木犀にしても寂しいほど穏やかでほんのりとしている。終盤では病院というかミントというか、爽やかといえる香りが、なぜか今頃珈琲の酸味を伴う香ばしさを伴って旨味の周囲に漂う。一本目から十本目まで旨味のある杉だった。旨味はなにか「揮発性のバター」とでもいうような存在しないものへの比喩を感じさせる。「葉巻の杉」はあまり好きではないけれど、偶然なのか、ホット珈琲だとか寂しい金木犀だとか、氷を嫌いつつ好くような、秋の深まりには合うと思う。ここでいう珈琲はマンデリンだとかトラジャのような苦味風のものではなく、あくまでも酸味風のもの。

 以下、一本目から九本目までの間の抜けた意味不明な感想。内容は大体同じ。

一本目
 一口、はじめて食す果物の、一瞬吐き出したくなる感触があり、それとともに杉に囲まれた病院が現れる。葉巻が大きいので既に呑み込まれている。
 結局はキウイが奥歯に沁みる、鼻の奥につんと来る。土や革や木のような葉巻感はあまり感じられない。木が杉でしかない。葉巻界では、木は葉巻だが、杉は木ではないのだ。私はあまり葉巻杉は好きではないのでこれを箱で買ったことは失敗だったかもしれない。煙も少ないし、ボディも軽い。2センチ。
 次第にバターじみてきて杉に浸透してくる。バターは濃厚というよりも白みがかった浮遊感のあるバター。白いバターなんてはじめて想像したが、かなり美味しそう。ミルキーなのかもしれない。杉らしいエグ味はあるものの舌触りはするするとしていて、良くも悪くも粉っぽい感じがない。味は薄い。3センチ。
 正確な位置は特定できないのだが、これはホンジュラスっぽい。キューバといえばモンテやコイーバだと思っているからいけないのだが、これはキューバの中のホンジュラスだろう。どちらかといえばアメリカ市場の味に近い。そんなことを思っているとキューバらしい香味がかえって感じられてくる。そもそもラッパーの質感からしてキューバでしかあり得ず、見たままの旨味がある気がするし、薄くてもやっぱりキューバなのだなぁ。しかしアップマン、ロメオに似ている気がする。パイナップルだとかキウイだとかいった感触は勿論、イガイガしさも。5センチ。
 とつまらなく思っているうちにバターが濃厚になる。こうなると私の浅はかな経験ではクァバやトリニダッドに重なる。アップマンらしさというのは正直感じられない。「杉病院」といえば欠点が特徴になってしまうし、そんな欠点がアップマンであってほしくない。いずれはこれが癖になるのかもしれないけれど。6センチ。
 よぼよぼな外観のとおり、ラッパーが燃え残りやすい。美味しそうな香味であるものの美味しくない、雑味もある。文句ばかり考えていると金木犀が突如狂ったように咲く。刺すように咲く。そんな狂い刺しは金木犀ではないな、別の花だ。これはすぐに収まる。そして花バターになる。酸味はないが、安いカップヨーグルトのような。変化は面白おかしいが、堪能させてくれない。7センチ。
 我慢した甲斐があったか、エグ味の奥から薄荷のような旨味ある白煙が立ちのぼってきた。エグ味が前面に出ている。それでもこの白煙はダビドフエスキシトスに似ている。そこに滑りの良いバターを加えてある。8センチ。
 突如小屋っぽい風情。だんだんハバナらしくなってきた。杉は随分なりを潜めている。小屋だけでは寂しすぎるし、豚のいなくなった豚小屋にもなりかねない。なんとも引っ込み思案な味わい。9センチ。以降、ぼよぼよとしている、というかこんな感想に疲れた。
 もう少し寝かせてアタリに当たればかなり美味しいような気がする。現時点では美味しそうでありながらもまったく美味しくない。残り9本。

四本目
 到着して一ヶ月以内に三本も消費してしまい、どれも台無しにしてしまったが、今回は丁度一ヶ月。落ち着いて旨味の乗った杉の香り。葉巻に杉を感じるのはあまり好きではないのだが、老練な杉の感じがして悪くはない。食べ頃の杉というか。ほんのりと甘味とスパイスも感じられる。それからまろやかさを加える何か。バターほど濃厚ではない、マーガリンのような何か。味は単純ではないけれど、単純に美味しい。杉を基調に美味しく惑わすのがアップマン流なのかな。恍惚の二三歩手前で旨味に落ち着いている。
 乾いても湿ってもいない。この葉巻は枯れても捨てられた家畜小屋にはならない気がする。糒にはなりそう。土っぽい大地じみた風味も無い。花も無い。不思議な杉の味がする。大袈裟にいうと一本の老木を瓢箪のように逆さにして鱈腹吸っているのである。老木が若々しい。
 もっと上のアタリがありそうだし、寝かせれば美味しくなりそう。もう少し吸い込みがよければ雑味も減りそう。それにしても四本とも吸い込みがよくなかった。変な人が巻いたボックスなのだとしたら一日間だけでも刑務所に入れたいです。
 グレンキンチ−12年がよく合う。雑味を和らげるし、優しさが増した。

七本目
 三ヶ月後。甘い杉にバーストしたパルタガスのような雑味。3ヶ月も経てば良くも悪くも我家の味に落ち着いているだろう。鯣のような芳香が増している。着火して噛むほどの旨味が出れば嬉しいのだが。
 そんなものは出なかった。好みではない杉っぽい風味、これは仕方がない。でも随分美味しくなった気がする。吸い込みが悪い所為か軽いが、芳醇さもあり、爽やかさもある。軽いというよりも軽やかに感じる。杉にスパイスで雑味は皆無。少し煎ったような香ばしさもあるが、茶色くはなく小麦色で、旨味を損なわない。香草をまぶしたバターライス。吸い込みが良ければもっと惹き込む力があると思うのだが、それでもあまり好きではなさそう。恍惚感などではなく、微妙な香味を楽しむ人向けなのかな。
 これで終われば未練がなくて良いのだが、中盤に入ると惹き付ける力が増してくる。旨味が粉っぽくなるというか、浮遊感が増して旨味に吟醸感が出てくる。昨夜のヘニオスはワインにまったく合わなかったけれど、これは悪くない。杉が花混じりになってあまり気にならない。ダビドフめいた洗練具合になってきているのか、しかし土や革をあまり感じず、土や革こそ葉巻っぽさだとすればあまり葉巻らしい愉しさがない。と思っていると少し土寄りの芳香が感じられる。なんだこれ、思った事がそのまま現実になる仕組みか。確かに革っぽくも感じられるようになってきている。でも何かが足りない。
 ホヨーやアップマンはきっとトリニダッド寄りなのだろう。モンテやパルタガスがコイーバ寄りだとして。私の区分けでは前者が葉巻らしくなく後者が葉巻らしいという事になっているらしい。ダビドフは後者に位置している。他にレイデルムンドとグロリアクバーナやボリバーを含む田舎臭いグループと、パンチとラモンアロネスのグループと、ベガスロバイナやベゲロスやサンクリストバルなどの狼っぽいグループと、クァバやロメオのような非グループとがある。グループなんてどうでもよいけれど、比喩の効力は無視できない気がする。

 優しいというべきか、旨味が過剰に濃くなりそうなところを杉が引き締めている。よくできていると思わずにいられないのだけれど。早くも七本消費してしまったのだが、いくら寝かせても根本は変わらない気がする。グレンキンチーが合うのは驚くほどだったけれど、パイナップル系の吟醸酒もけっこう合う。サケが単独でおいしいだけかもしれない。
 最終盤でのバーストが、辛味を伴いつつもそれまでの優しさの所為か心地好く感じられた。

 あまり好みではないはずなのだがこれだけ大きいものを数回以上吸っていると早くも愛着がわく。これぞハバナだという気にもなるし、相変わらず吸い込みが悪いのだが、邪魔臭い杉の彼方から、非常に近くまで、ナッツのこうばしさと旨味が近づいてくる。未だ発揮していない本領を発揮したらどうなることかと期待させるぐらいの旨味はある。
 しかしやっぱり好きではないのだった。これが少しパンチと似た雰囲気を醸した瞬間にわかった。パンチを吸いたくなってしまったのだった。

九本目
 最近クラブサイズばかり吸っていたのでなんだか美味しく感じられる、さすがプレミアム。はじめて昼に吸ったからかもしれない。今までの美味しくない記憶は全部夜だったような。濃厚さを感じさせるのに優しい旨味がすぅっと入ってくる。杉の香が気になるけれど、まあ好き嫌いは言うまい、という気になる。杉と、珈琲飴のような香ばしさと、それからよくわからないが爽やかな旨味が舌に触れて軽やかに跳ね上がる。
 終盤までほとんど染みた味わいも出てこないし、木犀も咲かない柔らかさを保っている。もっとも終盤から徐々に濃くなるが、緩やかにほんわりと徐して終わった。今日の日時そのままだが、遅い昼から夕方にかけてに適している葉巻なのかもしれない。
 当たり前なのか、九本ともほぼ同じ味だった。
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